第56章 損する性格
俺たちが見ようと思っていた映画は、案外人気があるようで。
「あれ、二人ずつしか繋がってる席取れねぇ!」
「えっ、すごい人気なんだね!」
『おやおや。時間ずらす?』
「次のは…あー、結構遅くまでかかるな。どうする?」
「うっ…ごめん、この時間だとちょっと怒られるかも…」
「マジか、緑谷最近怪我したりやんちゃし過ぎてるもんな。じゃあ仕方ねぇけど、2人2人で座るか、四人で観れる別の映画にするか」
「えっ、それは申し訳ないよ。切島くんこの映画観たかったんでしょ?」
「いや、別にいーよ。せっかく4人で来たんだし」
あっ、これは?
なんて、チケット販売機の側に置いてあった映画のパンフレットを手に取った。
「復讐者Xの末路!!」
「やめとけ」
「ダメ!」
「え、そんなダメ?」
『観たーい』
「ダメ、絶対ダメ!!」
「…けど、他にやってるのっていったらさー…」
ゴールデンウィークに合わせて放映が始まった幼児向けアニメの映画版やら、社会派映画ばかり。
なるほど、映画館が閑散としてるのに俺らが観る予定の映画だけ満員に近いのは、他のラインナップが残念だからか。
「時間的にも他の映画見たら緑谷の門限越しそうだしさ。もともと観る予定のやつ2人2人で見るか、復讐者X4人で観るかどっちか!どっちがいい?多数決!」
せっかく4人で並んで観れるのに、轟と緑谷は本当に復讐者の映画が観たくはないらしい。
あまりに緑谷が顔面蒼白になって首を横に振るから、仕方なく俺と向は折れて、二人ずつ分かれて座ることになる映画のチケットを取った。
「じゃあくじ引き感覚で、自分のチケットに書いてあった座席に座ること!」
「待って切島くん。僕、実は最後列じゃないと首痛めるんだ…だからこれ、チケット交換してくれないかな?」
「え?」
三人分のチケット代を俺が回収して、座席の書かれたチケットを緑谷に渡した瞬間。
俺の手元に残った1枚のチケットと、緑谷に渡したチケットを交換してくれと、彼が直談判してきた。
俺たちが指定した座席は、最後列の2シートと、真ん中辺りの通路側2シート。
俺はよくわからないままに、緑谷に二つ返事を返してチケットを渡した。
『じゃあ鋭児郎が隣か』
「………えっ?」
向が俺にチケットを見せてきて。
ようやく俺は緑谷のナイスパスに気がついた。