第56章 損する性格
「はよ緑谷!」
「おはよう、切島くん」
ある土曜日の11時。
県内有数の映画館が入っているショッピングモール入り口、オブジェの前。
待ち合わせ場所付近をうろうろしていた緑谷を発見した切島が、軽く手を挙げて声を発した。
「無地T」なんてロゴが入ってしまっている時点で柄Tなのか無地Tなのかツッコミ難いトップスに、ジーパンという出で立ちで現れた緑谷は、切島の姿を見つけるやいなや深々と頭を下げた。
「ごめん気を使わせちゃったみたいで!今からでも、本当気が変わったら言ってね?」
「ははは、何今さら言ってんだよ。二人きりだと、ちょっと照れ臭くて、映画の内容頭に入んないかもしれないしさ!緑谷と遊ぶのも、何気に初だし。今日すげー楽しみだったんだ!」
「……切島くん…!」
パァッと明るい太陽のような笑みを浮かべる切島が眩しすぎて、緑谷がうるうると両目を潤ませる。
今週の月曜、緑谷が提案した「土曜日当日、緑谷が病欠となり仕方なく二人で映画を見ることに」なんて策に、切島は乗ってくれる意志を見せていた。
しかし火曜日に会った時には「やっぱアレ無し!三人で行こうぜ!」なんて、彼はもう一度三人で行こうという意志を固めていた。
珍しく遊びに誘ってきた切島が本当に望んでいるのは向とのデートだろうと踏んでいた緑谷は、申し訳ないからと一週間かけてその有り難い切島の申し出を断り続け、結局。
断り切れずに現在に至る。
「緑谷、切島」
「おぉ、おはよ!」
「あっ、おはよう!」
その理由は、単に緑谷が押しに弱いことと、もう一つ。
「…と、轟くん」
「…おはよう。緑谷」
緑谷がずっと断り続けている場の一つに出くわした轟が、俺も行っていいか、なんて普段の彼からは考えられない打診をしてきたことに関係がある。
大して考えもせず、「おぉ!珍しいな、いいよ!」なんてナチュラルボーンキザなライバルを仲間に加えてしまった切島を見て、緑谷の態度は一転。
気づけば、じゃあ僕も行くよ!!!なんて返事を、カッと返してしまっていた。
(轟くんは、確実に向さん目当て…切島くん、僕に気を使ってまた誘ってくれたんだろうけど、そんなに優しい切島くんの目の前で躊躇いなく「おまえに土曜日も会いたくて」なんて轟くんが向さんに言葉をかけ続けるのなんか耐えられない…!)