第56章 損する性格
なんの憂いもなさそうに轟に挨拶した切島は、白パーカーに、スラッとしたデニムのアンクルパンツ、赤い色のスニーカーを履いており、元気な彼の性格に合い、赤い髪と赤いスニーカーが良く映えるファッションに身を包んでいる。
対する轟は、グレーの七分カーディガンの袖から、中に着ている七分のネイビーワイシャツの袖を折って出し、黒のスキニーパンツに、黒いスニーカーを履いていて、「無地T」に身を包んでいる緑谷からしてみたら、イケメン補正無しに100点満点をつけて何ら遜色ない出来に仕上がっている。
「ん?どした緑谷」
「…両腕抱えてどうした。寒ぃか」
「ちょっともう、穴があったらスライディングして隠れたい」
「「何から?」」
二人ともおしゃれだね、と恥ずかしさに悶えながら話題を提示しようとした緑谷に、轟が真顔で「緑谷、それ無地Tか柄Tかどっちだ」なんてトドメをさしてくる。
『おはよ』
「おっ、おはよー向!」
「あっ、おは…」
緑谷が振り返って、目を見張った。
一番最後に到着した向は、白いTシャツに、前を閉めない状態で黒ベストを羽織り、穏やかな印象を感じさせる黄緑色のロングスカートに黒いスニーカーを履いている。
「白いTシャツには変わりがないのに、「無地T」ロゴの暴挙がないことと、スカートの中にTシャツを入れてしまうという女子特有のハイウエスト戦略……あぁそうか、身体にフィットしているTシャツだからダボついた印象もなく、ロングスカートでバランスを取っていつも落ち着いてる向さんの性格に良くマッチして『出久出てる、全部口から出てる』
一瞬で彼女のファッションに目を走らせて、研究を始めてしまっていた緑谷は、ようやく彼女の指摘を受けてハッと我に帰った。
「ごごごめんつい!!ちょっと自分の「無地T」について考察を深めてて!!」
歳上男性にウケそうなファッションだね!なんて貶しているのか褒めているのか曖昧な緑谷の発言に、向がビクッと肩を震わせた。
「全員揃ったから、とりあえず先に映画のチケット取るか!昼ご飯何食べる?向、カレー専門店あるぜ!」
映画館へと向かう道すがら、切島が提案してきた。
向はじっと彼を見つめ、答えた。
『鋭児郎、私カレー好きじゃないよ』
「……えっ?」