第55章 友達リクエスト
「…ちょっとちょっと、深晴だって俺に何か文句ありげなのに「なんでもない」とか言っただろ」
『文句はないよ?』
「だって引いたって」
『うん、でも。電気は謝ってたし、友達として良い奴だから』
「……」
『納得がいかないのは私の問題。電気にどうこうしてもらう問題じゃない。わざわざ私ちょっとあなたに引いてるよ、なんて言う必要は無いし、謝ったならそれ以上私から言うことはない』
「……マジでなんでもねぇの?」
『うん。なんか変な感じになってたらごめん』
ちょっと心の距離が出来たから、また近づこうと思う。
深晴はそう言って、俺に笑いかけてきた。
(…よくも、まぁ……こんなズケズケと言えるもんだな……)
彼女が言うことを、まとめるならば。
「なんでもない」は、マジで「なんでもない」。
友達だし謝ったから許すけど、その感受性はマジでない。
なので心の距離が出来ました、けれどあなたは良い人だと思っているので、その関係を修復するつもりです。
「ひでぇ言われよう!!」
でも。
バカだと見下して、言ってもくれないような人達よりは、何万倍もマシだ。
自嘲気味に笑って、ふと思い出した。
(………友達)
私たちは、友達?
そんなことを彼女が聞いてきたのは、いつのことだっただろう。
確かその時自分は、何の気なしに答えた。
友達だろ、なんて。
切島たちとは違う線引きをしておいて。
(………友達か)
よくよく、考えてみれば。
切島も爆豪も、本当は何かあるのに、なんでもないと口にして誤魔化した。
罪悪感で自白してしまったり、バレバレだったり隠し方がお粗末だけれど、何かを言うまいとしてその言葉を使う。
どうしたと軽く聞いても、答えない。
けれど、深晴はどうなのだろう。
彼女から言わせれば、「なんでもない」という言葉は、本当に言う必要がないことを言わずにおく時に使う言葉らしい。
あんな軽い調子で一度聞いただけで、すぐに心の内を明かしてしまった。
どうやら本当に心情を隠すつもりがなかったに違いない。
(……マジか)