第6章 似せたんだから当たり前
数人の女子たちと一緒にグラウンドに現れた向のユニフォームを見た男子たちは、一瞬、唾を飲み込んだ。
上下エナメル質の黒ユニフォーム上部は、長袖の袖口が着物のように広がっている。
首を覆い隠す大きめの立襟までジッパーがしっかりと閉められているせいで、向の身体のラインに沿ってフィットしているユニフォームが、所々で光沢を放つ。
足の付け根までしかないショートパンツも上と同じようにエナメル質の黒色で、膝が隠れる程度のニーハイブーツも同じ質感の黒色だ。
全身黒ずくめでエナメル質、向のミステリアスな雰囲気も相まって、いくらか年齢が実年齢よりも上に見える彼女の首元には、縦幅が狭いメカニックなゴーグルがかけられている。
「向くん、よく似合っていると思うぞ!」
『おぉ、ありがとう。天哉もかっこいいよ』
「それは嬉しいコメントだな!お互いがんばろう!」
いつもと向の雰囲気が少し違い、どぎまぎとしてしまうクラスの男子たちから、飯田が妬み嫉みのこもった視線を集める。
((((飯田この野郎……!!))))
そんな一身にヘイトを集めていることとはつゆ知らず、一番間近で向を観察していた飯田が、ロボットのようなマスクの下から「おや?」と声をあげた。
「なんだか少し、相澤先生を彷彿とさせるな」
『え、そうかな』
「似ているのではないか?」
『そう?やった』
小さく喜ぶ向に、飯田が首を傾げる。
向はそのまま爆豪の所へと歩いて行き、『ねぇねぇさっき何言おうとしたの?』と問いかけた。
早い段階で目が合っていた爆豪は、「あ?」とだけ言い返して、記憶を遡るために数秒時間を費やした後、「なにもねぇよ」と答えた。
『なにもないの?教室でおいこらクソモブ女って呼んだ後だよ』
「ねぇよ。それより、なんだそのコスチューム」
『えっ。何か変?』
「………。」
腕を広げ、クルクルと回ってみせる彼女を眺めて、爆豪は声を出そうと口を小さく開けた後、パッと視線を逸らして「なんでもねぇ」と口ごもる。
なに?と何度も聞いてくる向のせいで、せっかく続いていた会話らしい会話は、「うっせぇぞ、黙れや!!」と怒鳴られる結果での打ち切りとなった。