第6章 似せたんだから当たり前
切島と上鳴、緑谷に引きずりこまれるように、ブチ切れている爆豪が男子更衣室へと消えていくのを、向は微笑んだまま手を振って見送った。
「よく相手にするよな」
と話しかけて来たのは、集団から少し離れて歩いていた轟だ。
向は笑みを崩さず、轟の方へと振り返り、だって嬉しいからね、と答えた。
『話しかけてくれるだけで嬉しいよ』
「そういうもんなのか」
『そういうもんさ。だから焦凍も、暇な時は話しかけてよ』
「…考えとく」
轟は男子更衣室へとまた歩き出し、そして足を止め、振り返って向を見つめた。
「なぁ、明日の昼空いてるか」
『昼?空いてるよ』
「なら空けといてくれ」
伝えたいことは伝え終わったらしく、轟は男子更衣室へと入っていく。
なぜ、なんのために、という具体的な内容が抜け落ちていることに、言葉少ない彼が気づいているのかいないのか、判断しかねる。
まぁいいか、と呟いた向が女子更衣室の扉に手をかけると、左後方からの視線を感じた。
『…………』
女子が出入りするタイミングを狙って、扉が開いた部分から覗きを試みようと、物陰にスタンバッていた峰田と目が合う。
「あっ、向」
『「あ」じゃねぇよ、「あ」じゃ』
向は自身の戦闘服ケースを峰田に放り投げ、彼の前頭部に直撃したのを確認した後、その場から動かず、また同じ軌道上を飛び戻ってくるケースをキャッチした。
「イテェエエ!何すんだよ向!歳上っぽいお前なら、寛大で包容力のある対応をしてくれるなんて期待したオイラが間違いだったよ!」
『間違いに気づけてよかったね』
「なんなんだよその個性、なんでそのケースがブーメランみたいになってんだ!」
『…ブーメランとは違うよ、遠心力は関係ないから』
「イテェエエもう動けねぇよぉお戦闘訓練の結果が良くなかったら向のせいだぁあ」
『それは単純にキミの頭の悪さのせい』
痛みでのたうちまわる彼を置いて、向は女子更衣室へと足を踏み入れた。
ユニフォームを見せ合う女子たちを眺めて、空いているロッカーの前に移動し、そこで、ふと思い出した。
(…結局、勝己は何が話したかったの?)