第53章 そうじゃない関係
昨日の午後。
無断欠勤なんて今までしたことがないのに、いつまでたっても学校に姿を現さない同期を、自宅まで押しかけて探しに行った。
すると、真っ暗なままのリビングのソファで眠ったままの彼を見つけた。
一向に呼びかけても返事はない。
血色の悪さに嫌な予感がして、タクシーで病院まで運び込むという大騒動になった。
「おまえへの溺愛っぷりっつーか…多分ありゃもう依存だろ。言いたかねぇけど、気をつけな。あいつ、特別な人間に対しては昔っからああだ。クソ女と昔付き合ってたんだが、そん時からなんも変わってねぇな」
『…依存、ですか。特別そこまで依存されてる感じはないですけどね』
(ちゃんと何か食べなよって言ってたのに)
何か食べなよ、じゃなくて、何食べた?と聞けばよかったのだろうか。
成人男性が自分の生命ラインすら維持できないほど一人の少女に夢中になっているという事実の恐ろしさに、向は気づかない。
『…あぁ、依存されてるっていうよりは…他の物に執着がなさすぎなんじゃないですか?』
「アーハン?」
『私への関心が高すぎるんじゃなくて、周りへの関心がなさすぎる。だから私が悪目立ちしてるだけで、特に問題はないかと』
「向」
んなつもりはねぇんだろうがよ。
マイクは真剣な面持ちで、じっと向を見下ろした。
「大人からかうと怖ぇーから、そんな気ないなら丁度いいところで距離置いとけ?」
『……。』
「他にもいんだろ!!轟とか、爆豪とか!!俺の推しは切島だけどな!!」
『…消太にぃが推しではないんですか?』
「推さないね!!だってあいつが結ばれたら孤独死すんの俺だけだろ!!!」
そんな理由かい、と突っ込む向の頭を、マイクがグシャグシャと撫でてきた。
「せっかくお茶に誘ったのに、苦言ばっかで悪りーな!!!」
『……いえ』
「で、職業体験どうだった?」
(……歳は同じでも、全然話す内容が違うな)
今日はどうだった?
から始まる相澤との会話を思い出しながら、向はマイクに適当な言葉を返す。
要件ばかり伝えてくるマイクと、要件などないのに話しかけてくる相澤。
独り身のマイクと、独身ながらに向を居候させている相澤。
比べてみると、確実に相澤の方が合理性に欠けている。