第53章 そうじゃない関係
もしかすると、向が押しに弱いだけなのかもしれないのだが、考えてはキリがないのでひとまず。
ずっと視界には捉えていた担任の元へと歩みを進める。
すると今度は、人混みの中から野生の上鳴が飛び出して来た。
「深晴じゃん!!ひさっしぶり!!元気だった!!?うわマジタイミングばっちり、マジやばくね!?帰ってくる時間被ってたんだな俺ら!?」
『お、おお電気。久しぶり、元気だった?』
「元気だよ、っつかおまえ怪我は?本当に大丈夫なん?」
『大丈夫だよ、もう報告行った?』
「んーや、まだ!行こうぜ!」
『うん』
矢継ぎ早に話しかけてくる上鳴と一緒に相澤の前へ行くと、報告が終わってもまだ興奮した様子で相澤に職業体験の感想を話していたらしい芦戸が「深晴ようやく来た!」と嬉しそうな声をあげた。
ノンストップで話し続ける上鳴と芦戸を背に、向は相澤の顔を見上げ、『戻りました』と報告を終えた。
「おかえり」
お疲れさま、ではないその相澤の言葉に、キャンキャンと騒ぎ続けている同級生達が気づく様子はない。
『…た、ただいま』
少し申し訳なさそうに言葉を返す向に、相澤が違和感を感じる。
『じゃあ、先に…えっと、帰ります』
頭を軽く下げて立ち去ろうとした向の手を、今度は相澤がパシッと掴んだ。
風の強く吹く改札口に立ち続けているからか、相澤の手はとても冷たい。
その温度に。
一瞬、さっき同じように手首を掴んできた轟の右手の冷たさが思い起こされる。
(……なんで)
どうして、思い出す。
どうして、引き止められた?
振り返り、相澤を見つめた。
「おまえの親に、車で送れと言われてる」
『…………え?』
「あと8人。次は17時台と、18時過ぎが到着時刻の奴らを迎えて今日は終業だ。それまで駅で時間潰して待ってろ」
『あ、焦凍が一緒に…』
帰ろうって、と言おうとした向だったが、相澤の見透かすような鋭い視線に、理由のわからない圧力を感じて、『わ、わかりました』と言葉を変えた。
ちょっと、じゃあ、あの。
しどろもどろになりながら、相澤の手に触れ、ゆっくりと自分から引き離す。
『断り、入れたらちょっとその辺で時間潰してるので…お仕事終わったら、連絡ください』