第53章 そうじゃない関係
「エンデヴァーヒーロー事務所、二人とも帰ってきたな。まぁ一人負傷してるが…色々向こうの大人に言われて来ただろうから、俺からは黙っておくよ。お疲れさん」
「…どうも」
担任からの淡々とした労いの言葉に、轟はぺこりと頭を下げる。
現在地は雄英がある県の中心駅。
新幹線改札付近の、少し広めの通路壁際。
そこに、目立つヒーローコスチュームを着た雄英教師陣が立っている様子は何とも異様だ。
いつもと変わらず眠そうな様子の相澤の隣には、B組生徒の帰還報告を受けている担任ブラドキングと、何か不測の事態に陥った場合の連絡要員として来たプレゼント・マイクが暇を持て余し、声をかけてきたリスナー達とファンサービスで写真を撮り続けている。
金曜の夕方だからか、人が多い。
向はその人の波をかき分け、相澤の元へ行く前に、「きゃぁあひさぁしぶりィ深晴げんきだったぁああ!?」なんて彼女の姿を見つけた芦戸に絡まれ、その歩みを止められてしまった。
ハイテンションな大声を発して抱きついて来た芦戸に目を丸くしたままだった向を、芦戸を放っておいて帰還報告を済ませて来た轟が迎えに来た。
「このまま帰るのか?」
『あぁうん、そのつもり』
担任のチェックを受けた生徒から順に帰宅して良い決まりだったはず。
帰還報告を終えれば、もうここに留まる理由はない。
「私も報告まだ!一緒に行こ!」
『うん』
そう誘ってくれた芦戸は、ひさぁしぶりィに再会した轟にも抱きつくかと思いきや、「轟だ!やっほー!」なんて軽い挨拶をした。
やはり知り合いを見つけて大声を発しながら再会を喜ぶのは、女子同士に限ったことらしい。
「深晴」
ささっと人の間を縫って行く芦戸を追いかけ、歩き出そうとした向の手を、轟が掴んだ。
「一緒に帰ろう」
『…あー…私、ちょっと駅の中見て歩こうかと思ってて』
「付き合う」
『でも、疲れてるだろうし』
「別に良い」
『……と、とりあえず報告してくるね?』
「ああ」
待ってる、という言葉と共に、手首を掴む彼の手に力が込められて、パッと解放された。
(…結局家にもお邪魔することになったし…押しが強いんだよなあの親子…)