第52章 これからもお世話になります
『決められないってわかってても、どれがいい?って聞かれることはとても嬉しいです』
「………?」
『今日の夜ご飯何食べたい?お祝い事があった時、何欲しい?って聞かれることはとても嬉しいことだと思います。結局「どれでもいい」って答えてしまっても、何も聞かれずにいるよりはとても幸せな事だと私は思います』
「………」
だから。
彼女ははっきりと、言い切った。
『何も変わらないなんてことはないです。言わないだけで、きっと彼もそう感じてきたはずです。時間をかけても決められない時、これにしておけって急かして決めてくれる人の存在も、私は必要だと思います』
生徒と、そんなに変わらない。
そんな年の差の女の子の言葉に。
私は静かに、聞き入っていた。
そらすことなく、私だけを見つめて言葉を投げかけてくる彼女の姿に。
「……そうかな…?」
なんて。
いつも教壇に立って偉そうなことを言っているくせに、こんな時ばかりは言葉が思い浮かばなくて。
そう思います、と言ってくれた彼女に。
私は俯いて、ケーキを口に頬張った。
それから彼女は、3つ目のケーキを勧めてくる私にひどく申し訳なさそうに断りを入れて。
でもちゃっかり、最後にはケーキを食べて、とても幸せそうに微笑んでいた。
トレーニングルームから帰ってきた焦凍を交えて、だいぶ埃が被っていたテレビ用のゲーム機を引っ張り出した。
兄たちがいなくなってからは、もう随分放ったらかしにしてあったそのゲームで、三人で一緒に遊んで。
夕方。
夜ご飯は家族と一緒に食べる約束なので、と帰る準備をし始めた彼女を玄関先で見送った。
彼女を送ってくると出て行ってから数分経たず。
「ただいま」
「あれっ、焦凍!?」
「…逃げられた」
「えっ、どういうこと!?」
今日こそは家を突き止めてやる予定だったのに、なんて危ない発言を零した弟に、私は聞いてみることにした。
「ねぇ、彼女?」
「……まだ違う」
「まだ!?まだってなに!?」
「告白して振られた。けどまだ押してる」
そう平然と言ってのける弟に、私は開いた口が塞がらない。