第52章 これからもお世話になります
姉弟の二人の方が似てます。
そう微笑んだ彼女に、私は見惚れてしまいそうになりながら言葉を返す。
「そ、そうかなぁ。私は父似で、焦凍は母似」
『美形に生まれてくるベストな遺伝ですね』
「性格も似ててね、いっつもせかせかしてる。深晴ちゃんはよく待てたね?ケーキ選ぶ間、一切急かさなかったよね」
『時間がかかる人だって知ってたので』
(……違うよ)
知っていたって、待てる人と待てない人がいる。
彼女は待てる人で、私は待てない人だ。
私よりも幼いのに、そんな余裕がどこから湧いてくるのだろうと不思議になった。
「…焦らない?」
『んー。私も決めるの時間かかるので、大して人のこと言えませんから』
「……」
『冬美さんは、急かしてあげるんですか?』
「…急かしてあげるって言い方も変な感じだけどね。せっかちだから、結構…待とうと思って待てない」
『急かすのも大事では。遅刻しそうなのにマイペースに朝食をパンかご飯か決めかねてたら、それは急かしてあげないと』
「ははは。確かにね。…でも、なんか…こんな話するのどうかと思うんだけど、子どもの頃、それこそケーキ選ぶのに焦凍が迷ってて。急かしちゃったら、それ以来ショートケーキしか選ばなくなっちゃって」
『……へぇ』
「だから今日二人を見ててびっくり。何回どれがいい?何食べたい?って聞いても全然変わらなかったのに、深晴ちゃんとならちゃんと考えようとするんだもん」
なんで、こんな話を。
そう思っても、口から言葉が出て止まらない。
弟の友達に。
こんな歳下の子に、話してどうするんだろう。
「…その……本当に、あなたが焦凍と出会ってくれてよかった。ありがと、マイペースなあの子と一緒に、考えてくれて」
『私は』
彼女はケーキを食べ進めていた手を止めて。
私を真っ直ぐに見つめた。
『ホームに落ちた時、彼に助けてもらいました。お礼を言うのは私の方です。彼からお母さんの話を聞きました。そのあと、ずっと冬美さんが母親役を引き受けてくれていることも。だから、ありがとうございます。身を投げ出して私を助けてくれるような、優しい彼に育ててくれて』
「……私は何もしてないよ。きっと、そんな風に焦凍が変わったのは、あなたのおかげ」