• テキストサイズ

風向きが変わったら【ヒロアカ】

第52章 これからもお世話になります




焦凍は、子どもの頃からそれなりに女子から人気がある。
バレンタインにはカバンをパンパンにして帰ってきていたし、卒業シーズンになると、呼び出しを受けたから遅くなる、なんて父に訓練のスタート時間を遅らせる申告をしてくることなんてしょっちゅうだった。


ーーー何も変わらないなんてことはないです。言わないだけで、きっと彼もそう感じてきたはずです。


(……まぁ、でもなァ…あの可愛さで、あれはなぁ……)


儚げで。
凛々しくて。
可愛いらしく。
時に格好いい。
あんな子が近くにいたら、きっと男子はイチコロだろう。


「…他の子にしとけばー?競争率高そうじゃない?」
「深晴がいい」


靴を脱ぎながら、そう言った弟の背に。
私はかける言葉が見つからない。


「…そういや、ありがとな」
「…え?」
「深晴と二人だけだったら、普通でいられなかった」


姉さんが家にいたから、いつも通りいられた。
そう言って、弟は。
私に何年振りかわからない、微笑みを向けてきた。


「…なに、いつも何も言わないくせに!」
「え」
「いつも何聞いてもなんでもいいしか言わないくせに」
「…なんのことだよ。なんでもいいんだから、仕方ねぇだろ」
「でもあの子が良いんだ?」
「…悪ぃかよ」
「いや?」


良いチョイスだと思うよ、と。
弟の初恋相手に太鼓判を押す。


「ねぇ、深晴ちゃん次いつ遊びにくる?」
「……聞いておく」


ケーキをペロリと平らげてしまった、食い意地が張った可愛い彼女を思い浮かべながら。
またケーキを買いすぎてしまったら。
弟には内緒で、彼女を家に招いてみよう。
突然家に現れた彼女を見たら、弟はどんなに驚いて。
どんな表情を見せてくれるのだろう。


「明日から学校でしょ!夜ご飯食べよ!」
「……あぁ」


絶対零度と言われた我が家。
その家に訪れつつある温かな陽射しを、確かに予感しながら。
珍しく、夕食作りを手伝ってくれるらしい弟と一緒に並んで。
学校での深晴ちゃんの話を聞きながら、私は。




私は





「良い人欲しい!!!」
「お」


ビクッと弟が震えるほど。
心の底から叫んだ。


「…うちの担任を落として欲しい」
「その話詳しく!!」


がっついてくる私を見て。
弟はまたうっすらと、微笑んだ。

/ 768ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp