第52章 これからもお世話になります
「ちょっと運動してくる」
「………え?」
物思いにふけって、ダイニングテーブルに肘をついていたら、いつのまにか横に立っていた焦凍にそんなことを言われた。
「えっ、深晴ちゃんは!?」
「テレビ見て待っててくれるらしい。ちょっとだけトレーニングルームにいる」
「は!?ちょ、家デート中じゃないの!?」
「……」
振り返った弟の顔には、余裕がない。
その真剣な表情に、私はハッとして黙ってしまった。
「……舞い上がりすぎてる。ちょっと落ち着かせてくる」
「……………え?」
クールに、そう言って。
私の弟は、せっかく友達が遊びに来てくれているというのに、トレーニングルームへと向かって行った。
「深晴ちゃんごめんね、ほんっとマイペースな子で!」
ドタバタと和室に向かうと、彼女はじっと、ローテーブルに置きっぱなしだったケーキの箱の中身を見つめていたようで、『わあ』と驚いた声をあげた後、恥ずかしそうに箱をしめた。
「えっ、全然食べて!」
『いや、あの……すみません』
いただきます、と素直に彼女は照れ笑いしながら箱を開け、2つ目のケーキを皿に置いて『いただきます』と礼儀正しく声を発した。
「食べれるなら全部食べていいから!今日二人しかいないのに買いすぎちゃって…いつも私しか食べないから、太っちゃうしさ」
『…いつも?』
「うん、いつも買いすぎちゃうの」
『わかります。甘いものってつい買いすぎますよね』
「ねー」
パクパクと、特に弟に怒る様子もなく、彼女はケーキを食べ続け、目を輝かせている。
「…あんまり、食べたことない?」
『いや、たまには。でも人数分以上買おうとすると、合理的じゃないって言われるんで』
「合理的?変わった保護者の方だね」
今のはオフレコで、とよくわからないことを頼んでくる彼女の向かい側に座り、私もケーキをようやく食べることにした。
ひとつだけ余分に買ってあったショートケーキがもう無くなっているのを見て、私は面白くなって問いかけてしまった。
「なんか、二人似てるよね。深晴ちゃんもショートケーキ食べたの?」
『似てますか?はい、焦凍くんが「ハズレない」って言って置いてくれました』
「えぇ?自分はあれだけ待たせといて、選ばせてあげればいいのに」
『あぁ全然。食べてみろってことかと』