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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第52章 これからもお世話になります




いやただのジェントルやないかい。
純粋すぎる瞳を向けてくる弟と、彼の意図を理解していたらしく、全く動揺していない彼女の視線を受けて。


「…わ、私これ出したらいなくなるから…っ」


自分が彼らとは違い、汚れちまった大人である悲しみに赤面しながら、二人の前に取り皿とケーキの箱を置いた。


「焦凍はいつもショートケーキなんだけど、ショートケーキは2つ買ってあるからどれでも好きなものをどうぞ」


そう言った私の言葉に、彼女はキョトンとして、焦凍を見つめた。


『ショートケーキ好きなの?』
「普通」


なんとなく、そう決まってる。
そういった焦凍は彼女が手を出すまで待つらしい。
カラフルなケーキに心を奪われて、ふるふると震えている彼女を、弟はじっとローテーブルを挟んだ位置から見つめ続ける。


『んー、この家の子より先には選び難いな。お姉さんはどれが好きですか?』
「あぁ、私はいいの。お客様から選んでいいよ」
『あー…じゃあ焦凍じゃんけんしよ。勝ったら先に選ぶ』
「俺はショートケーキでいい」
『これでいいじゃなくて、これがいいのを選びなよ』


はい、じゃんけんぽん。
そう言った彼女に釣られて、焦凍がグーを出し、彼女がチョキを出した。
なんやかんや、焦凍はショートケーキを選ぶんだろう。
5つ買ってきたケーキの余ったものから、1つ選んで自分も最後に食べようと思っていた私は、その場にとどまって。
いつもと違い、ケーキを真剣に吟味し始めた弟の様子に驚いた。


(……あれ、選んでる)


ローテーブルに上半身を伏せた低い体勢で、じっ、とケーキを睨みつけたままの焦凍。
彼女はその彼と同じような体勢でローテーブルに両腕と顔を投げ出して、ジッと仲良く並んでケーキを眺め続ける。


(…………なっ………が)


ねぇ、ケーキが乾いちゃうよ。
15分経過し。
そう言いそうになった口を片手で押さえて、必死に我慢。
30分経過。
何やら二人は、ケーキの見た目についての評価を交わし始めた。
45分経過。
次に、今の旬の果物は何か、という観点からケーキを選ぶ突破口を探し始める。
1時間経過。
ようやく、焦凍が決めた。


「…ショートケーキにする」
(結局!!!?)


そうツッコんでやりたい。
シャウトしてしまいそうな私とは対照的に、彼女は穏やかな声で焦凍に問いかける。

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