第52章 これからもお世話になります
金曜日の夜に、保須市から帰ってきてからというもの。
どこか焦凍は落ち着かない。
戦場から帰ってくると、気が高ぶって落ち着かないという父の小言を聞いたことがあったために。
それかなぁなんて、あたりをつけながら、しばしの間弟を観察していた。
父がまだ保須での出張を終えていない以上、天敵がいないのだから落ち着けばいいのに。
そう思いながらも、土曜日を過ごし。
日曜日を迎えた今朝から一層そわそわとして、時計を見てばかりいる弟を観察していて。
気づいた。
(…あ。日曜日が楽しみだった?)
わかってしまえば、なんとも可愛らしく思えてくるもので。
待ち合わせ場所に迎えに行ってくる、なんて確実に15分以上早く目的地に着いてしまうであろう時間に、玄関口に立つ弟の背を、いってらっしゃいと見送った。
(…なるほど、だからわざわざあの頑固親父が彼女を家に呼ぶ、なんて意味わかんないことを言い出したわけか)
やたら、父が体育祭から帰ってきた後、「焦凍のサイドキックに!」なんて気に入っていた彼女。
なんだか、少し楽しげに彼女を迎えに行った弟の表情を見て。
父だけが、彼女を気に入っているというわけではないようだと分かった。
(……と、友達として?それとも女の子として?わからない、デリケートってことは……えっ、まさか振られた?焦凍振られた?)
聞いてみたい。
けど、聞くわけにいかない。
あぁだって今は、とても弟が楽しげに、微かに口元を緩めているじゃないか。
「お、お昼は食べてきたのよね?ケーキ買ってきてあるからどうぞ」
平静を無理やり装って、彼女を和室に通した。
木でできたローテーブルに、なんだかとても肩を狭めて正座した彼女を見て、自主的にお茶を運んだ焦凍が声をかける。
深晴、と緊張をほぐしてあげようとしたのだろう、声をかけた弟の言葉を背後で聞きながら、私はケーキが入った箱を冷蔵庫から取り出した。
「俺の部屋行くか?」
「!!!!?」
(ちょっとそれは時期尚早すぎる!!!)
「ちょっ、待って!!あっそういう感じ!?ごごごめんなさい私彼女が来るって知らなくて!!友達って聞いてたからごめんなさい!!それにしたって焦凍、彼女だとしてもそんな豪速球投げちゃ絶対ダメ!!!」
「……?……なんでだ。姉さんの前だと、気ィ使うんだろ」