第52章 これからもお世話になります
日曜日の、昼過ぎ。
弟に連れられて、ひどく申し訳なさそうな顔をした女の子が一緒に、玄関口に現れた。
『お、お邪魔します……』
あぁ、世間で騒がれているだけはある。
確かに、可愛い。
「いらっしゃい!どうぞ」
「…深晴、スリッパそこの」
『あぁ、ありがとう』
深晴って名前なんだ。
……あれ?
ちょっと待ってよ、可愛いどころじゃなくない?
ものすごく、あれっ、ものすごくどころじゃない…でもものすごく可愛い。
多分、プロヒーローウワバミの次世代なんてものじゃない。
きっとこの子は、オリジナルになったって遜色ないくらいにとても魅力的な女の子だ。
「……姉さん、あんまりガン見すると深晴が怖がる」
『いや、大丈夫大丈夫!』
「あっ、ごめんね!リビングはこっち!」
弟が、女の子を名前で呼んでいるところを初めて見た。
というか、弟の友達が家に遊びに来ることなんて初めてだ。
なんだか、初めて息子が彼女を連れて来る時の母親の心境ってこんな気持ちなのかしら。
弟の甘酸っぱい青春の1ページ、丁度いいタイミングで、私は自室に篭ろう。
(………えっ、ちょっと待って)
父と、弟曰く。
ヒーロー殺しと戦おうと向かった焦凍を心配し、彼女が現場へと駆けつけた。
彼女自身は、駆けつけた際、切りつけられそうになっていた焦凍を守る、という正当防衛の範疇を出ない行動だけで留めたため、規則を破ったとは見なされていない。
対して焦凍は、完全に危害を加える意図でヒーロー殺しと戦闘行為を続け、警察の恩赦を受けた。
恩赦を受けたこと、危うく愚息のせいでヒーロー殺しに殺されるかもしれない場に彼女を巻き込んでしまったこと。
父は彼女に、どちらも黙っていてほしいので、恩を売れるだけ売っておくという大人気ない策を、とりあえず講じることにしたらしい。
それが「美味いもんでも食わせておけ」という子供騙しでどうにかなると思っているあたり、実父ながら、本当にこの年頃の子どものことをわかっていないと辟易する。
(…焦凍を心配して駆けつけてくれて…名前呼び……えっ、嘘もしかして)
「彼女!?」
『えっ』
「姉さん、深晴が嫌がる」
デリケートな話題だ、と釘を刺してくる弟の本心が、お姉ちゃんわからない。
どっち。
どっちなの?