第52章 これからもお世話になります
私の名前は轟冬美。
雄英高校ヒーロー科1-A、轟焦凍の姉。
ちなみに独身、教師やってます。
「…えっ、日曜日に焦凍の友達が遊びに来る?」
絶対零度なんて友達に評され続けた私の実家に、最近になって、めざましい変化が訪れました。
あげるときりがない変化の一端。
保須市へ泊まり込みの出張をしていた父から電話があり、授業の一環として父に同行していた弟が、一週間の職業体験を終え、金曜日に実家に帰ってくることが告げられました。
<体育祭の件の詫びも兼ねて職業体験に呼んだのに…結局また詫びる必要が出来た!!どうなってるんだおまえの弟は!!!>
「いやいや、その前にあなたの息子でしょう。突っ走って女の子まで巻き込んじゃうなんて。痕残る怪我なんてさせてないんでしょうね!?男子の保護者と女子の保護者じゃ、怪我させた後の怒り方全然違うんだからね!?わかってんの!?」
<うるっさい怒鳴るな!!!とにかく、保護者についてはこちらで連絡を取っておく、おまえは適当に豪勢なものでも菓子でも食わせておけ!!>
大して良いもの食ってなさそうだからな!!!
なんてその女の子のなにを知ってそんな失礼な物言いをするのかと、私がまた言い返してやろうとした直前、通話がブチっと切られてしまいました。
「…豪勢なものって…」
ヒーロー一家の娘として、世間に公表できない話を内輪で留める代わりに、耳にしてしまうのは日常茶飯事。
ヒーロー殺しを捕まえたはずの、父の記者会見での不服そうな顔を見て、私は。
あぁ、きっと。
本当の功労者は別にいるのだろうと、すぐに思い至りました。
<焦凍、なんかしたでしょ?>
とメールで弟に問いかけてみると。
<ちょっと、規則破った>
なんて。
全く悪びれている様子のない返事が返ってきました。
雄英に入学する前まで。
口では父に反抗しながらも従順に。
寡黙に息を殺しながら、ただじっと、訓練を続けている弟の凍りついた表情を思い出してみると。
「規則を破る」なんて行動を、弟が取ったとは想像ができませんでした。
けれど、体育祭終わりから少しだけ、たまに笑みを浮かべるようになった彼の事を思い浮かべると。
(…まぁ)
そんなことも、たまにはいいかなんて
教師として、あまりよろしくないことを私は考えてしまうのでした。