第51章 君にお世話を焼かれたい
そう、言いかけた時。
病室の扉を開けて、飯田親子が戻ってきた。
向はパッと顔をこわばらせて、轟が重ねた手をベッドに戻した後。
飯田母の元へ歩いて行った。
『向深晴と申します。体育祭では、大切な息子さんに怪我をさせてしまって本当に申し訳ありませんでした』
そう、深々と。
轟は、頭を下げる彼女の背中を見て。
彼女と一緒に頭を下げてくれる親の姿が、その隣に無いことが。
とても、とても、切なくて。
(……深晴)
怪我をして、一日だけ、入院する羽目になったとしても。
様子を見にくる親の姿を、微かに胸の奥で期待して。
その病室の扉をいくら眠い目を擦って眺めていても。
それでも。
一向に腰掛ける人のいなかった
自分の為のパイプ椅子。
(……あぁ、やっぱり)
彼女が愛しい
また自分の胸に。
言いようのない感情と、温かさがこみ上げてくる。
好きなんて言葉じゃ足りない。
言葉で表すならば、ただただ愛しい。
轟は、なおも頭を下げ続ける彼女の背を見つめて。
雪のように降り積もるような彼女への想いを、また胸の奥に募らせた。