第51章 君にお世話を焼かれたい
もっと、好きになった。
そう付け足す彼の言葉に、向の頭からボッ!と湯気が吹き出すのを見て。
加害者の轟が「どうした」と至極真面目に問いかける。
『ど、どうしたもこうしたもない』
「…深晴」
『あの、名前あんまり呼ばれると恥ずかしいんだけど』
「……出来る限り呼びたい。特別な感じがする」
『特別って』
「近い距離にいるのを、許されてる実感がある。それより、あんまり俯いてるとおまえの顔が見えねぇ」
自分でそう言っておいて、ふと。
轟は大好きな彼女の耳が真っ赤に熱を持っているのを眺めながら、暑苦しく、うっとおしい大嫌いな父親のことを思い出してしまった。
ーーー携帯じゃない
ーーー俺を見ろ焦凍!!!
ーーー焦凍、どうしてだかわかるか!?
ーーー焦凍ーーー!!!
(……うぜぇ……)
恥ずかしいなんて可愛い気持ちは芽吹いて来ないが、名前を呼ばれ続けてなんとも言えない気持ちになるのは頷ける。
ーーー近い距離にいるのを、許されてる実感がある
「………。」
『……焦凍?』
自分と、大嫌いな父親に。
個性以外でも、確かに似通った部分があるのであれば。
そう考えて、陰鬱とした気分に落ち込みそうになり、また彼女に視線を移した。
俯いていたはずの彼女は、やはり轟の放つ雰囲気の変化を敏感に感じ取り、じっと轟を見つめていた。
「……深晴」
『……ん?』
「…おまえが側にいてくれたら、俺はもっと…」
『……うん』
「…もっと…いろんなことに、気づける気がする。俺が…今まで気づかずに、見逃してきたことを。気づきたくなくて、見ないふりをしてきたことも」
だから、やっぱり。
俺と一緒に。