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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第51章 君にお世話を焼かれたい




はぁ、と折れた向が、彼の手元に差し出していたりんごを口元に持っていく。


『……あーん』


願い叶って、ようやくりんごを口にした轟を見て、向がクスクスと笑った。


「……そんなに可笑しいか?」
『おかしいよ。普通そこまで明け透けに、好意を前面に押し出したりしないから』
「……そういうもんか」
『多分ね。…焦凍は今まで、どんな人を好きになったの?』
「おまえだけだ」
『ははは、口説けってことじゃなくて。過去にどんな人を好きになったの?その人たちにも同じようにアピールしてたの?その時、珍しいねとか言われなかった?』
「……?」


もう一個食べたい、と確実に腕を動かす気のない轟のリクエストを聞き入れ、向がりんごをもう一切れ、轟の口元に差し出した。
無言で差し出しているといつまでもじっと見つめてきたまま口を開けようとしない彼に、少し気恥ずかしさを感じ始めた向が視線をそらす。


『あ、あーん…』


指先の振動と、シャクシャクという咀嚼音で彼がウサギをまた1羽、天に召した事を確認し、向が腕を下ろした。


「おまえ以外に、好きだと思った奴はいねぇよ」
『………え?』


向をじっと見つめたまま、さっきの問いかけの答えを返してくる轟。
彼女は目を見開いて、驚いた顔をした。


「…おまえだけだ。おかしなこと言ったり、してたら悪い。経験がねぇからわからねぇ。でも、何もしなかったら多分深晴…おまえ、先生しか見ねぇだろ」
『……。』


初恋、だと思う。
轟はそう言って、少しだけ頬を赤らめながら、じっと向を見つめ続ける。


「…昨日は悪い。ちょっとイラついてた」
『えっ………あっ、いや…私も、なんか…失礼なことしてごめん』
「…失礼?」
『な、なんというか…友達としてしか見てなくてというか……』
「……あぁ、やっぱそうか」


轟がゆっくり身体を起こし。
そっと、向の膝の上に置かれていた彼女の手に、自分の手を重ねた。


「……ようやく、意識してくれたみたいだな」


真っ赤に染まった彼女の俯いた顔を覗き込んで。
轟が少しだけ微笑んだ。


「…おまえが見舞いに来てくれて嬉しかった」

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