第51章 君にお世話を焼かれたい
『起きた?…怪我はどう?』
そう問いかけてくる彼女の声がやけにクリアに聞こえて、違和感を感じ振り返った。
『天哉は多分、今診察じゃないかな?私が来た時は誰もいなかった。出久は私とエントランスで会ったよ、一括送信のメールに対する説明を電話でみんなにしてくるって』
「……そうか」
『ごめんね、昨日。私情挟んで。最後まで聞けば良かった。そしたらみんなそこまで怪我する事なかったのに』
「…いや。飯田はきっと、おまえが初めからあの場にいたら…正しい選択ができたかわからねぇ。俺と緑谷が戦ってる間も揺れ動いてた。結果的に、おまえが終盤に現れた事で諦めがついたみたいだった」
『正しい選択かな?』
手元で器用に切ったりんごを、ウサギ風に整えた後。
向は、皿にそれを1つ移動させて、爪楊枝を刺した。
「……引き止めようとしてただろ、おまえも」
『そうだね。でもそれが正しいかどうかは私にはわからないよ。私が…天哉が夢を手放すのを見たくなかっただけ。正しいと思ってやったわけじゃない』
「………」
出久は、友達に人殺しをさせたくない。
焦凍は、友達を復讐から救いたい。
ヒーロー殺しは、信念を貫きたい。
私は、友達にヒーローになってほしい。
『みんな、自分の願望を優先しただけ。あの場で一番、苦しんでいたはずの天哉の願望だけ叶わなかった。兄の仇を討ちたいって天哉の想いは、そんなに間違った事なのかな。そんなに許されない願いなのかな』
善と悪なんて大多数がいつだって決めるもの、そうでしょう?
彼女は轟を見ようとはせず、長い指先で、綺麗にりんごを皿の上に盛り付ける。
『……はい、どうぞ』
いつも通りの笑顔で。
いつも通りの声色で。
彼女は轟に、一つのりんごのウサギを差し出した。
深晴、と名前を呼ぶ轟に向がなに?と問いかけて。
彼は神妙な面持ちで、言葉を続けた。
「俺も、あーんされたい」
『なんか最近、焦凍残念なイケメンと化してない?大丈夫?』
「大丈夫なわけねぇだろ…」
『えっ、頭打った?』
「目の前で……飯田におまえがあーんしてるの見せつけられてんだぞ…!正気でいられるわけねぇだろ」
しっかりしろよ、イケメンだろ、と呆れる向に、轟が寂しげな視線を向けてくる。
「………」
『………』
「………」