第51章 君にお世話を焼かれたい
「…さすがに気絶してる…?っぽい…?」
長い長い沈黙を破って、緑谷が言葉を発した。
はぁっと四人が息を吐き、顔を見合わせる。
「…おい深晴、焦らせんな。だいぶ動揺しただろ」
「えっ、轟くんけっこう単刀直入で聞くね!?僕はもう…なんていうか、そもそも向さんが殺すって言ったの、本気だって捉えた僕が浅はかだったんじゃないかとか色々聞く言葉考えてたのに…!」
『あー本気本気』
ははは、と笑う向に、「はははじゃないよ!!」と緑谷がまた血の気を失った顔で説教し始めた。
珍しくブチギレている緑谷に少しおののきながら正座させられている向を見て、轟がようやく、張り詰めさせていた身体の緊張を解いた。
(……危なかった)
おそらく、あの瞬間。
飯田が起きてくることがなければ。
(……考えたくねぇが)
向が抱える復讐。
それは、轟が考えていたような血を流さないものとは違うのかもしれない。
ヒーロー殺しに向けた彼女の眼光は、鋭く、鈍く光って。
今までに目にしたことのない荒々しさを称えていた。
「…とりあえず、拘束して通りに出よう。なにか縛れるもんは…」
突如、そう言った轟の背後で繊維が破れる音がした。
振り返ると、そこに立っていた向が、自身のコスチュームの片袖を転がっていたナイフで切り離し、引き裂いていた。
『天哉、右腕を出して』
「っ…すまない」
『謝らなくていいって』
申し訳なさそうにしている飯田の腕を、向がひとまずコスチュームの上から止血する。
すまない、と繰り返す彼の額に、大丈夫だよ、と言葉を優しく返す彼女の手が乗せられるのを見て。
轟が一瞬何かを考えた後、自分の切り傷を眺めた。
「深晴、俺も…」
「あっ、轟くん!ロープ落ちてた!」
向に怪我をアピールしようとした轟が立ち止まり、呼び止めてきた緑谷に「……そうか……」とちょっとしゅんとしながら返事を返す。
「えっ、ロープじゃダメかな?」
「…いや…どうでもいいんじゃねぇか」
「投げやり!?」
「ちょっと、あの…あれだ」
眠ィ、と雑な理由付けをしてくる同級生に、緑谷が「えぇ!?」と驚くのと同時。
動けずにいたプロヒーローが、ようやく身体の自由を取り戻した。