第50章 警察のお世話にはなりたくない
「向くん!!」
『っ!?』
この、刀を抜いてくれ。
右腕を貫通した状態で突き刺さっている刀を抜けと、鬼気迫った表情を向けて指示してくる飯田に、向はグッと歯を食いしばり、迷いを見せる。
『私が、戦った方が…っ』
「頼む!!戦いたいんだ!!!」
轟が飯田の脚を凍らせ、飛びかかってくるステインに向き直る。
向は真っ青な顔をして、飯田の腕に刺さった刀を引き抜いた。
(ありがとう、轟くん。向くん…!)
戦うんだ
腕など、捨ておけ!!!
高速移動し、飯田がステインを蹴りの射程範囲に収めると同時。
身体の自由を取り戻し、飛び上がった緑谷が、ステインの左頬に向かって拳を構える。
(ーーー今は、脚が)
(ーーー今は、拳が)
あればいい!!!
緑谷が放った右フックはステインの左頬を完全に捉え、飯田が宙を舞い、ヒーロー殺しの右の脇腹に重い蹴りを入れた。
なおも切りかかってくるステインに怯むことなく、飯田が二度目の蹴りを繰り出した。
「たたみかけろ!!」
轟の声に被って。
大切な人の声が聞こえてきた。
ーーー天哉が憧れるっつーことは俺、すげえヒーローなのかもな
叫びたくなる痛みをこらえて、立ち上がったのは。
ヒーローとしての志。
そんな大層なものじゃない。
ただ、大切な憧れを失った事実から目を背けたいだけ。
目標だった兄の背中を、未だ追っていたいだけ。
インゲニウムは死んでいない。
認めたくない。
こんな、犯罪者の理不尽な言い分には屈しない。
「おまえを倒そう…っ!…今度は…!」
兄さんは、多くの人を助け導いた
立派なヒーロー。
「犯罪者として!」
大好きなヒーロー。
大好きだった、ヒーロー。
ーーーこの名、受け取ってくんねえか
「ヒーローとして!!!」
繰り返される、重い蹴りに。
世間を騒がせたヒーロー殺しが
遂に倒れ伏した。