第51章 君にお世話を焼かれたい
ビルの間の細道から出て、駆けつけてきたプロヒーロー達に保護された直後。
ようやく、これでひと息つける。
そんな安心感に緑谷と轟、向が身を任せようとした時。
「二人とも…僕のせいで傷を負わせた。向くんも。本当に済まなかった…」
飯田が涙を零しながら、深々と頭を下げてきた。
三人は顔を見合わせ、それぞれ思い思いの言葉を飯田に返す。
「…僕もごめんね。君があそこまで思いつめてたのに、全然見えてなかったんだ。友だちなのに…」
「…しっかりしてくれよ。委員長だろ」
「…うん…」
『…私こそ。止められなくてごめん』
そう言う向の横顔を、緑谷が心配そうに見つめた。
彼女はその視線に気づき、緑谷と視線を合わせた後、いつものように微笑んで、ひらひらと片手を振ってくる。
(…なんだか…すごく、嫌な予感がする)
彼女の目的。
彼女の執着。
緑谷は以前、オールマイトからそれとなく彼女のことについて何か知っていることはないかと問いかけられた時のことを思い出した。
(…オールマイトが聞きたがってたのは、多分このことだ。彼女の過去に関連づけられた、彼女が今雄英にいる理由)
なんとかして、話してもらえないだろうか。
そう考え込んでいた緑谷の耳に、グラントリノの声が響いた。
「伏せろ!!」
「え?」
突如、上空から現れた飛行型脳無が緑谷の身体を捕まえて、飛び上がる。
「わあああ!!」
遠ざかっていく緑谷と脳無を見て、プロヒーロー達が駆け出すより一瞬早く。
演算を終え飛び上がった向の脇を、ヒーロー殺しがものすごい勢いで跳んで行った。
羽をもがれたかのように、身動きせず落下してきた手負いの脳無にトドメを刺して。
ヒーロー殺しは、到着したエンデヴァーを含めたヒーローの「贋物」達を振り返り、雑音が混じった呼吸を繰り返しながらも、言葉を発した。
「……正さねば」
「誰かが…血に染まらねば…!」
「英雄を取り戻さねば!!」
「来い、来てみろ贋物ども」
「俺を殺していいのは、本物の英雄だけだ!!!」
その迫力に気圧されて。
数人のプロヒーローが腰を抜かした。
静けさの中。
エンデヴァーがヒーロー殺しの殺気の異変に気づき、呟いた。
「…気を…失ってる」