第50章 警察のお世話にはなりたくない
「緑谷、落ち着け!!」
「っごめ、轟くん…!」
冷静さを欠いた緑谷の足を切り裂いて、ステインがまた長い舌先で血液を舐めとった。
轟が距離を取るために出現させた氷壁を斬り開き、ステインが飛び込んでくる。
『…ねぇ、天哉。キミは私に言ったよね』
向が低く呟き、ゆらりと立ち上がった。
ーーーもっと、自分を認め、賞賛する
ーーー周りの視線に執着したらどうなんだ
『いいの?諦めて』
彼女はただ、呟くように言葉を紡ぎ続ける。
その彼女の目を見て、飯田は静かに、息を飲んだ。
(…何が、ヒーロー)
友に守られ。
血を流させて。
罪を思い知らせんが為に、僕は兄の名を使った。
ーーーまた明日。
入試から何も変わっちゃいない。
目の前の事だけ…自分の事だけしか見れちゃいない。
もっと、優先すべき存在がずっと近くにいたのに。
ーーー忘れてるわけじゃないよ。聞こえてないんだよ
君に、聞いてやればよかった。
どうして、そんな悲しい顔をして僕を見送るのかと。
珍しく君が僕に話しかけてきてくれた。
同じ立場、同じ復讐者の僕になら、君は話してくれたかもしれないのに。
(……おまえの言う通りだ、ヒーロー殺し。僕は彼らと違う未熟者だ。足元にも及ばない!!)
ーーー助けに来たよ
ーーー二人で、守るぞ
ーーーキミには殺させない
みんな、みんな。
言葉は違えど、僕の身を案じてこの場に駆けつけてくれた。
「氷に、炎。言われたことはないか?個性にかまけ、挙動が大雑把だと」
轟の間合いに入り、ステインが轟の左腕を切り落とさんと刀を構え、駆け出した。
「化けモンが…!」
『時間切れ』
轟の声を聞き、向が飛び出して来たのを見て、ヒーロー殺しがもう片方の腕に掴んだ刀を向に向ける。
「おまえも、粛清対象だ贋物!!!」
『黙れよ、社会のゴミが』
彼女の手が自身に向けられていたステインの腕を反射で弾き、顔に触れようとした瞬間。
「レシプロ…バースト!!!」