第50章 警察のお世話にはなりたくない
理解が出来ても、納得が出来ない。
なぜ、君がそこまで?
僕のために、代わりに殺すだと?
「……わからない。そんなことをしたら、君の未来はどうなる」
『出来れば今警察のお世話にはなりたくなかったけど、仕方ないよね。私の復讐は先延ばしにして、キミの将来を案じるとするよ』
「…っふざけるな、僕はもうダメだ、君こそ…君こそ、ヒーローに…!」
『ダメだよ。帰る家があるなら帰らなきゃ。なりたいものがあるのなら』
どうして。
君はこんな状況で、いつものように笑ってみせるんだ。
『私にはなりたいものなんてないし。…友達が、憧れも夢も全部失うところなんか見たくない。だから代わりに殺してあげるよ。でも……キミには殺させない』
そんな言葉を、君の口から聞きたくない。
だって、君はそんな言葉を平気で口にするような女性じゃない。
「…っふざけるな!!!君に、そんなことはさせない……!!!」
『いいから、答えてよ』
手伝おうか?
彼女がじっと飯田を見下ろして、問いかけてくる。
「………っ……」
彼女の、暗い陰った瞳を見上げて。
先週、学校で
彼女が同じように、僕へ問いかけてきた時のことを思い出した。
『復讐なんてやめときなよ』
帰り際。
下駄箱で靴を履き替えていた飯田の背中に、彼女がそう言った。
「…復讐?なんの話だ」
『ヒーロー科の学級委員長が復讐に走って退学なんて、笑えない』
「……ははは、大丈夫!そんなことにはならないさ。確かにヒーロー殺しの事件について調べてはいるが…それだけだ。何かあれば、プロヒーローと警察に任せようと思っている」
『…本当に?』
「あぁ、もちろんだ。心配かけてすまない」
『…天哉、最近何話してもそれしか言わない。もっとちゃんと聞いてよ。聞こえないふりしないで』
「何!?ちゃんと聞こえているし、返事も返している!大丈夫だ!心配かけてすまない」
あぁ、そうか。
彼女にこんな言葉を使わせたのは、僕のせいだ。
『天哉』
「…逢坂くん、大丈夫だ。ありがとう」
僕は引き止めてくれる彼女の言葉に、馬鹿の一つ覚えのような返事を返し続けて。
業を煮やした彼女が立ち去る僕の腕を捕まえて、宝石のような瞳で見上げてきた。