第50章 警察のお世話にはなりたくない
『もし機会があれば、天哉と話してみてくれない?』
「……俺よりおまえの方がよく喋ってるだろ。どうして」
『いや、私が何言ったところで何も聞こえてないみたいだからさ』
「なら、俺が話しても尚更なにも伝わらねぇだろ」
職業体験へと向かうJRの中。
「あいつはおまえを特別に思ってるんだから」
そう言った轟の言葉に苦笑して、向は言い切った。
『焦凍の言葉の方が伝わるよ。同じ場所で燻ってる人間と、その向こうへ進んだ人間の言葉じゃ重みが違う』
キミの言葉なら、きっと。
そう断言する彼女に、轟は言葉を返した。
「……買い被りだろ」
兄貴がやられてからのおまえが気になった。
恨みつらみで動く人間の顔なら、よく知ってたから。
そういう顔した人間の視野が、どれだけ狭まってしまうのかも知っていたから。
ーーー君の、力じゃないか!!
ーーー私も、焦凍と一緒に考えるから
たった、一言。
本当に自分の言葉にも、そんな力があるのだろうか。
同級生の想い、価値観、葛藤、見てきた世界を全て変えるほどの力が。
ーーー伝わるよ。同じ場所で燻ってる人間と、その向こうへ進んだ人間の言葉じゃ重みが違う
なぁ飯田。
おまえに俺の言葉が届くのか?
命を張って好きな女一人助けても、「救いたい」と言葉にしても、彼女は笑って、俺の想いを受け入れようとはしないのに。
俺と一緒に救われようとは、考えもしないのに。
「止めてくれ……もう……僕は……」
「……ッ」
たった、一言。
「やめて欲しけりゃ、立て!!!なりてえもんちゃんと見ろ!!」
飯田の頭に、自身が名乗りを上げた時の声が響いた。
溢れる涙を堪えきれず、また自由の効かない指先をコンクリートに押し付けた直後。
また一人、乱入者が現れた。