第50章 警察のお世話にはなりたくない
心底面白そうなものを見つけた笑みを浮かべて、ヒーロー殺しステインは「良い」と緑谷を評価した。
生かすに値する存在。
そうステインが認めるのと同時、緑谷がステインに向かっていく。
身体の自由がきかない中で、必死に指先に力を込める間。
飯田の頭の中には、忘れたはずだった彼女との会話が蘇ってきた。
『天哉』
朝。
飯田はほぼ毎日、1-Aの誰よりも早く登校し、座席についている。
「あぁ、逢坂くんか。どうした?」
今日は珍しく、早いんだな。
そう言った飯田に、おはようと彼女は微笑んで。
飯田も慌てて、挨拶が先だったな、おはよう向くん!と返事を返した。
『あのさ、何か話したいことあったら話してね。最近ずっとぼんやりしてるよね?』
「そうだな、ありがとう」
でも、大丈夫!と笑った飯田を、彼女は心配そうな顔で見上げてきた。
『大丈夫なわけないよ』
ずっと天哉らしくない。
そう言われて、飯田はまた笑みを浮かべて取り繕った。
「大丈夫だ、心配させてすまない。ありがとう!」
いつも予鈴ギリギリに登校してくる彼女が、2番乗りで登校してきたその日は、確か金曜日。
何度も何度も声をかけられて、夢のような一日だったのに。
本物の夢のように、忘れてしまっていた。
まるで爆豪のような身体さばきでステインと戦う緑谷を見て、飯田がハッと現実に引き戻された。
ステインが刀を舐めた直後、緑谷がガクリと体から力が抜けたように地面に這いつくばる。
「パワーが足りない。俺の動きを見切ったんじゃない、視界から外れ…確実に仕留められるよう画策した…そういう動きだった」
おまえは生かす価値がある。
緑谷を再度評価したステインが、また飯田の元へと歩みを進める。
「こいつらとは違う」
「ちくしょう!!やめろ!!」
「ーー……っ!!」
動け、こいつを許すな、兄さんの為にもこいつは許しちゃいけない、僕がこいつを止めるんだ
僕がこいつを、殺す
ステインの切っ先がまた振り下ろされる直前。
炎熱と、氷壁がステインの方へと瞬時に迫る。
驚いて飛び退いたステインが、うんざりしたように言葉を漏らした。