第50章 警察のお世話にはなりたくない
「何を言ったっておまえは、兄を傷つけた犯罪者だ!!!」
たった一人。
プロヒーローの応援も呼ばず、ヒーロー殺しステインに挑んだ飯田。
しかし彼に一撃すら与えることは許されず、憎い兄の仇である男に、頭を地面へと踏みしめられていた。
飯田の左腕に突き刺した刀を抜き、そのままもう一度、彼の身体にそれを突き刺そうとしたステインの視界に、素早く動く何かが映り込む。
その直後。
参戦者を瞳に映すよりも一瞬早く、ステインの顔面に拳が叩きつけられた。
「緑谷……くん……!?」
弾け飛ぶように仰け反ったステイン。
彼を殴りつけ、飛び込んできた同級生の名を、飯田が呟いた。
「助けに来たよ、飯田くん!」
ビンゴだ、と口にする見知った友人の姿を見て。
一瞬だけ、飯田の両目から溢れていた涙が引いた。
ホッとして、ひどく動揺した。
けれど、口から出るのはそんな安心感を抱いたことは微塵も感じさせない言葉の羅列ばかり。
「緑谷くん!?何故…!?」
「ワイドショーでやってた…!ヒーロー殺し被害者の6割が人気のない街の死角で発見されてる。だから…騒ぎの中心からノーマルヒーロー事務所辺りの路地裏を虱潰しに探してきた!」
動ける!?
とステインから目をそらすことなく確認してくる緑谷の声に、飯田が激痛の走る身体に力を込める。
「身体を動かせない…!斬りつけられてから…恐らく奴の個性だ!」
「それも推測されてた通りだ、斬るのが発動条件ってことか…?」
緑谷くん、手を出すな。
そう背後から聞こえてきた声に、一瞬だけ緑谷が視線を飯田へと移す。
「君は、関係ないだろ!!」
「…何…言ってんだよ…」
「仲間が、「助けに来た」…良い台詞じゃないか」
ユラリと身構えながら、ステインが言葉を発する。
思想犯の眼は静かに燃ゆる。
いつかオールマイトが言っていた言葉を思い出し、緑谷が相手の「信念」を身体で感じ取る。
足を震わせながら、ファインディングポーズを取る緑谷を見て、飯田が叫んだ。
「やめろ!逃げろと言ったろ!!君には関係ないんだから!」
「そんな事言ったら、ヒーローは何も出来ないじゃないか!それに、オールマイトが言ってたんだ…!」
緑谷は憧れの人の名前を口にして。
その人を自分に重ねるように、笑ってみせた。
「余計なお世話は、ヒーローの本質なんだって」