第49章 兄がお世話になりました
夕暮れの西陽が街を照らす中。
高い塀のようにそびえ立つビルに囲まれた路地裏には、そんな太陽の名残すら届かない闇が存在していた。
「騒々しい……阿呆が出たか…?後で始末してやる…今は…俺が、為すべき事を為す」
何百と存在する路地の一本。
一人のヴィランと、一人のプロヒーローが敵対していた。
「身体が…動かね…クソやろうが…!!死ね…!」
そんな最期となる誇りのかけらもない言葉を呆れながら聞き届けて、ヴィラン側であるはずのヒーロー殺しは、右手に刀を構え、左手に先ほどの陳腐な捨て台詞を吐いたプロヒーローの顔面を握り締めながら、ため息をついた。
「ヒーローを名乗るなら、死際の台詞は選べ」
横一閃。
刀を振ろうとした直後、背後に人の気配を感じて、刃の向きを翻し、振り抜いた。
そこにいたのは。
「…スーツを着た子ども…何者だ」
その鋭い一撃を危うく交わした乱入者は、体勢を崩して尻餅をつきながらも、また懲りずに体勢を整え、はっきりと燻る殺意を向けてくる。
「血のように紅い巻物と、全身に携帯した刃物…ヒーロー殺しステインだな!そうだな!?おまえを追ってきた、こんなに早く見つかるとはな!!僕はーー……」
そう言った彼の目の前に、ステインの切っ先が突きつけられる。
そして、ステインはさも簡単に彼がこの場に現れた目的を言い当てた。
「その目は仇討ちか。言葉には気を付けろ。場合によっては子どもでも標的になる」
「…標的…ですら…ないと言っているのか」
では聞け、犯罪者。
刀を突きつけられながら、それでもゆっくりと身体を起こした彼は、告げる。
「僕は…!おまえにやられたヒーローの弟だ…!!最高に立派な兄さんの弟だ!!兄に代わり、おまえを止めに来た!!」
ーーーこの名…受け取ってくんねえか?
「僕の名を、生涯忘れるな!!」
ヒーロー殺しステインに
飯田天哉は、名乗りを上げた。
「インゲニウム!!!おまえを倒す、ヒーローの名だ!!!」