第49章 兄がお世話になりました
「法律って、時に残酷ですよね」
職業体験、3日目。
甲府から新宿行き新幹線の一車両内。
スマホをいじりながら、そんな話題を振ってくる緑谷に、「座りスマホ!まったく近頃の若者は!」とグラントリノはよくわからないいちゃもんをつけてきた。
「例えば、正当防衛の為じゃなきゃ個性を使っちゃいけないとか…ものすごく歳の離れた相手との恋愛とか。ただ純粋に生きたい、愛した相手に触れたいって気持ちを押し殺す足枷にもなりますよね。守ってばかりじゃ自分の命を守れない場合だってあるし、いくら子どもと大人だって…そんなの、大枠として設けるだけで例外を設けられたらいいのに」
「その例外をどこに適応するのか、何を許して何を許さないか。判断できる存在なんて、この世にはありゃせんだろう」
「それはそうなんですけど…」
「いいか、おまえを渋谷に連れて行くのは乱闘騒ぎに放り投げる為じゃないぞ。ほんの小さなイザコザにおまえをぶち込んで、怪我させることも怪我することもなく場を納める!それがヒーローの仕事だ、敵をボコ殴りにして生死を問わないなんてのは例外の例外!様々なタイプと状況の経験を積ませる為に行くんだからな」
「あっ、結局ぶち込むんですね。着く頃には夜ですけどいいんですか?」
「夜だから良い!その方が小競り合いが増えて楽しいだろ」
「楽しかないですけど納得です…」
緑谷がまたスマホに視線を戻したのを見て、またグラントリノが「座りスマホ!!まったく近頃の若者は!!」と二度目のボケかツッコミか分からない反応を見せる。
<お客様座席にお掴まり下さい、緊急停止します>
アナウンスと同時。
新幹線が急ブレーキをかけ、乗客の体がグッと前へ押し出される。
緑谷たちの座席の前方。
大きな破裂音とともに新幹線の側面が破壊され、一人のヒーローが投げ込まれてきた。
「ヒーロー!?」
「キャアアアア!!!」
パニックになる乗客たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
身体を起こしたプロヒーローらしき男が、大きな穴となった車内側面に顔を向けた直後。
異形の巨大な男が屋外から現れ、男の頭を押さえつけた。
(脳無!?)
「小僧、座ってろ!」
「え!?グラントリノ!!」
車外へ飛び出したグラントリノと脳無らしき男。
緑谷がその背を追い、目にした街は。
(この街…保須だよな…!?)