第49章 兄がお世話になりました
こんな時ぐらい、誰にも邪魔されない時間を過ごしたい。
そんな願望を優先して、彼女の部屋に留まったまま。
落ち着かない手元を誤魔化すように、甘い和菓子を頬張った。
(…シャワー、入ったのか)
俯くように床を一点集中して見つめていた轟は、リュックとコスチュームをボストンバックの上へと移動させる彼女の髪が濡れていることに気づいた。
「悪い、俺は放っておいていいぞ」
『あー、じゃあ髪乾かしてくる』
彼女が洗面台へと向かって、ドライヤーをつけた後。
また彼女の携帯が光って、着信音が響いた。
(……。かつき……爆豪か)
その表示されたローマ字表記の発信相手を見て、轟は向を呼びに行こうと一度咀嚼を止めて、数秒間スマホの画面を眺めた。
(………。)
切れろ。
そう一度願った直後、どうやら電話のコール待ちすら出来ないらしい彼が5コール目で通話を切った。
(…切れたから、仕方ねぇよな)
なんて理由をつけて、もぐもぐと食欲を満たし続けた。
何やらビックリマークの多い通知が彼女のスマホに表示されるのを見て、ハッとした。
(……なんで一々他人のスマホ覗いてんだ…?)
自分の女々しさに衝撃を受け、彼女のスマホから距離を取るように、つい先ほど空いた座席へと移動した。
数分間、和菓子だけに集中しながら無心でいると、また彼女のスマホが視界の端で光を放つ。
(…………。)
逃げるな、戦え、と頭の中で反芻しながらも。
抗えず、ゆっくりと、彼女のスマホにそぉ…っと手を伸ばし。
『ごめん、うるさかった?』
「!!」
突如戻ってきた彼女の声に驚き、反射的にスマホの近くに置いてあった部屋の内線を手に取った。
『ん?何か頼むの?』
「…っああ」
『あ、さっき見てたんだけどなんか遊び道具とかレンタルできるらしいよ』
無料で!と心底嬉しそうにそのポイントを強く推してくる向に背を向けたまま、即座にルームサービスが載せられているホテル紹介の冊子を手に取った。
<はい、こちらフロントでございます>
「……っ」
迷った時は。
一番よく知っていて。
一番ハズレないものを選ぶ。
「あの」
そして、轟は瞬時に目に飛び込んできたカタカナ4文字を読み上げた。