第49章 兄がお世話になりました
勝手に食堂へ置き去りにしておいて、次はおまえの持っている菓子を寄越せと空腹を満たしに押しかけてきて、挙げ句の果てに相手の都合も聞かず、トランプをルームサービスで頼み始める大胆不敵かつ明らかに常識が欠如している同級生と、今一体向はどんな気持ちで向かい合っているのだろう。
自分がそんな同級生と一週間過ごさなくてはいけなくなったとしたら、確実に神経が衰弱していく。
なのに、彼女は案外楽しそうに誘われたカードゲームに興じている。
(……いいのか、この状況)
だからこそ。
また図に乗ってしまう自分がいる。
いつも彼女が笑っているから、勘違いしてしまいそうになる。
せっかく面白い話をしてくれているのに、リアクション一つ取れない自分。
せっかく友人からの着信に気づいていたのに、それを伝えすらしなかった自分。
(……。)
『あ、ただいまー。なんかさっきも電話くれてたみたいなんだけど、気づかなかった』
部屋に戻ってきた向は、洗面台へ移動して片手で口を押さえている轟を見てギョッとした。
『わぁ、気持ち悪い?大丈夫?』
「…何でもねぇ」
『でも顔赤いよ。熱は?』
「……ねぇって。こっちみんな」
彼女の片手が、轟の額に触れて。
その手のひらが熱くて。
一気に、轟の顔が更に赤く染まった。
(…う、わ)
『……あ』
向がその彼の反応を見て、パッと手を離した。
視線を逸らし、ふいっと部屋の方へいなくなってしまった向。
『あのさ、私そろそろ着替えたいから、また明日遊ぼう』
そう部屋の方から聞こえてきた声を聞いて、轟は口元を押さえながら、うつむきがちに上目遣いで鏡を見た。
真っ赤に染まった自分の顔を見るのは、子どもの頃熱を出した時以来だ。
身体全体が熱くなっているのも、きっと個性のせいじゃない。
凍えるような寒さを感じることはあっても、身体の感覚がぼやけるような熱さを自分の身に感じることは、そうそう無い。
「……っ」
(………恥ず……)
深呼吸して、ひと言かけてから部屋を出ようと彼女の背を追って部屋に戻った。
「……。」
深晴、と呼ぼうとして言葉に詰まる。
彼女はベッドに腰掛け、スマホを眺めて楽しそうに、微笑んでいた。