第48章 いつもお世話になっております
一息で話し終えた向の声色は、冷静でありながら、煮えたぎる怒りを含んだような低く、脅しにも似た威圧感があった。
彼女の変化を確かに肌で感じていたエンデヴァーは、その言葉を聞き、目を丸くしていた。
『……すみません、何も知らず』
パッと笑った向は、申し訳なさそうに自分の頭に手を置いて、軽く頭を下げた。
「……それは、本当か」
『…さぁ、私が勝手に解釈しただけです』
自分の、言葉足らずな意図を見事に言い当てた彼女の「解釈」。
外れていてほしいが、外れている可能性は限りなくゼロに近いだろう。
『……ご馳走さまでした、先に部屋に戻りますね』
そう言って立ち去る彼女の背を眺めながら。
ふと、懐かしい記憶が蘇ってきた。
あれはいつだったか、ケーキを家族に買って帰るなんて似合わない事をしようと思い立った、ある日の出来事。
ーーーじゃあ焦凍はショートだから、ショートケーキね!はい、決まり!
仕事着から運動着に着替えて、気恥ずかしいような気持ちになりながらもリビングに入ると、そんな娘の声が聞こえてきた。
「…じゃあ、それでいい」
「焦凍、ゆっくり選んでいいのよ?冬美、あまり急かさないの」
「えーだっておっそいんだもん!」
「なんだ焦凍まだ食べてないのか!早く食べて、訓練場に行くぞ!」
「あなたも、あまり急かさないで!たまには訓練ばかりじゃなくて、ケーキの一つでも一緒にゆっくり食べてあげたらいいじゃない!」
「もう30分待った!!俺はいらん、早くしろ!!」
そうだ、30分も。
ケーキを一つ選ぶくらいで、焦凍は、途方にくれていた。
「もう、やめて、怒鳴らないで!!」
「…それでいいよ、お母さん。俺ショートケーキでいい」
「…えっ?本当にいいの?焦凍」
「うん」
その末の息子の顔を見てすぐにわかった。
俺の顔色を伺うような、視線。
怒鳴ったつもりはないのに、彼女が「怒鳴らないで」と言うから。
まるで俺が本当に怒鳴ったかのように、子どもたちは俺に気まずそうな視線を向けた。
「…ッさっさと食べろ!!!」
その居心地の悪さに、本当に怒鳴り散らす羽目になって。
少し時間が経って、子ども達がリビングから離れた後。
残ったままの一つのケーキを見て思った。