第48章 いつもお世話になっております
「初めからそう言っていただろう」
『いやいやいや、それは聞き捨てならねぇな』
「そっちがひねくれた解釈をしたまでだ」
『某爆豪みたいなこと言ってるなぁ…道理で不器用さは焦凍似で口下手さは勝己似…絶望的ですね。私の神解釈を少しは褒めていただきたいものだ』
「絶望的だと!?それが大人に対する態度か!!」
『ひねくれ加減は消太にぃか…』
最悪のコラボ、とよくわからない人名をあげて嘲ったような笑みを浮かべる向に、エンデヴァーが口ひげを噴火させた。
『怒らないでくださいよ、ちょっとこっちとしては指名受けて職業体験に来てるはずなのに、親子水入らず感出されて肩透かし食らってるんですからね』
「…君は、体育祭時には否定的な態度だったな?なぜ来る気になった」
『あなたの事務所は役に立つと息子さんが言っていたのを聞いて』
「……フン、何を考えてるんだか」
料理、取ってきますね。
そう言って大して時間をかけることなく戻ってきた彼女のプレートには、全く味の好みが掴めないラインナップの料理が並んでいる。
エンデヴァーはそれを眺めながら、ボソリと睨むような目つきで話しかけてきた。
「なぜ選べない」
『あー。知らないものがあると迷います。並んでた料理、ほぼ知らないものばかりだから、とりあえず片っ端から食べるって焦凍くんと決めました』
「うちの焦凍は不自由してない、ああいう少し変わった料理だって口にしたことはある」
『ちょっと、その言い方だと私が不自由してる感じになってますよ。…焦凍くんは、好き嫌いがないから選べないんですよ』
「好きなものぐらいあるだろう、蕎麦もそうだ」
『好きなものは、蕎麦くらいです。他に好きなものはない』
「そんなわけあるか、色んなものを口にさせてきた」
『…そうでしょうか?何食べたって、味に意識がいかない精神状態になったことありますか?何食べても味がしない、印象に残らない。彼の場合はそれだと思います』
「………何?」
『そんなことにすら、一喜一憂せずにきたんですよ。彼はここまで、心の余裕も、安らぎも持たずに過ごしてきた。だから好きなものにさえ気づかない。嫌いなものは身体が勝手に拒絶して記憶できる。けど、生きていく上で「余分な」ものを選ぶ基準を持たない。ただクソみたいな毎日を過ごして、生きてきた。だから選べないんです』