第5章 先生としてどうなんですかそれは
「あとで葉隠に聞いたぜ、骨折してたっぽいって?それであの成績ってやるよなー」
『…葉隠?』
「あーえっと、なんだっけ、透!葉隠透!」
『あぁ、透か』
「向の個性って結局なに?」
『あっち向いてホイで負けない個性』
「やってみようぜ!」
ジャンケンポン!と切島が手を出してきた。
向はそのジャンケンに応じ、グーを出した。
パーを出した切島が、あっち向いてホイ!と指を上に向ける。
その後4、5回ジャンケンと指差しを繰り返すが、ようやく向は切島にジャンケンで勝利した。
『あっち向いて』
ほい!と向が指差した方向に、ぐんっと切島の頭が持っていかれる。
まったく反対側を向こうとしていた切島は、「は?」と呆けた声を出して、目をぱちくりとさせた。
「…あれ?なんで俺こっち向いて…今反対側向こうとしてたはずなのに」
『私の勝ち』
向は『どうだ』というように胸を張った。
切島はもう一回!と提案したが、彼のオレンジジュースが無くなったグラスを見つめた向は、また明日ね、と言って椅子から腰を上げた。
「ちぇー、じゃあまた明日も勝負な。よくわかんなかったけど、勢いをつける個性…とか方向を変える個性、そんな感じか?でもなんであんな速く飛んだり出来たんだ?」
『ははは』
「笑って誤魔化すなよー。先生方はお前の個性知ってるんだっけ。相澤先生に聞いてみっかな」
『それは反則だよ鋭児郎』
(……名前呼びって結構むず痒いものがあるな…)
そわそわとしながら、向の手から伝票を取って、カウンターに向かう。
『私が払うよ』
「いいって、こういう時は…その…男が払うもんだろ」
『そうなの?』
「そうなの!」
自分で言っておきながら、気恥ずかしくなってくる。
向をテーブルで待たせて、カウンターへ会計をしに行った。
会計を終えて戻ると、彼女は姿勢を正したまま、空を見上げていた。
その彼女の横顔を見つめていると、なんだかまた、気恥ずかしいような気持ちが湧き上がってきた。
「…向」
なんとなく、名前を呼んでしまってから、話題を慌てて探した。
あの先生、謎だよな、と話してみると。
向は少しだけ笑って、言った。
『猫とか、好きそうだよね』