第5章 先生としてどうなんですかそれは
はい!と向はストローを使ってひと口だけオレンジジュースを飲んだ後、そのグラスを切島に渡した。
使用済のストローの先をじっと眺めた後、切島は「おぉう…」と変な声を漏らす。
「あっ、待った!」
『ん?』
向は既にフレッシュグレープフルーツジュースのストローにも口をつけてしまっており、ストローだけ個別に使おうぜと提案しようとした切島は、口を噤んだ。
『なに?』
「いや…いやいや…なんでもない…」
(……はっず!恥ずくないか!?っていうか普通女子ってそういうの嫌がるもんじゃねぇの!?なんで平然とそんなことできんだ!?)
意識すればするほど、切島の掌は変な汗をかいていく。
女子とウェイウェイできる中学時代を過ごして来なかった切島としては、向の振る舞いはあまりに「男慣れ」しすぎているように感じてしまう。
「……向さ」
『ん?』
「彼氏、いたりするよな?」
『なんで半確定的なの?』
「いや、なんとなく…」
『いないよ』
「じゃあ、男兄弟いるとか」
『いないね』
なんで?と首を傾げながら、どうやらグレープフルーツの方が気に入ったらしい向は、ちゃっかりもう既にその薄ピンク色の飲料を半分まで飲んでしまっている。
ちゃっかりしてんなー、と彼女の手元に視線をやりながら言うと、向は『ははは、こっちがよかった?』と笑うが、グレープフルーツジュースを手放すつもりはないようだ。
「…いいよ、俺オレンジジュースの方が好きだし」
『うん、そうだろうなーと思って』
「ん?」
向はにこにこと楽しげにジュースを飲み干して、『視線が、オレンジばっかりに向いてたから』と理由を答えた。
そんなにわかりやすかったかな、と自分の行動を振り返る間、向が財布を探そうと、自分の鞄から物を出し始めた。
投げ出されたマスクを見て、思考が個性把握テストの方向に流れた切島は、向の鼻をじっと見つめた。