第48章 いつもお世話になっております
ヒーロー飽和社会と揶揄される現代。
そんな世界で、常にNo.2ヒーローとして数えきれないほどの事件を瞬く間に解決し、社会に貢献し続けてきたエンデヴァーの統率力と勘は、圧巻の一言に尽きるものだった。
保須市へ移動後。
数日、常日頃のヒーロー活動を側で見学する間、轟がエンデヴァーを見る目つきは、日に日に変わっていった。
「焦凍!!この順序でパトロールをする意味がわかるか?」
「焦凍!少女!こっちへ来て俺の話を聞け!!!」
「焦凍!!はやくしろ!!」
何かあるたび、焦凍、焦凍と息子の名前を怒鳴り散らすエンデヴァーの姿を眺めて。
向はぼんやりと、まるで自分の職場見学に来た幼い子どもに、仕事のこだわりを聞かせたがる父親のようだな、なんて感想を抱いた。
そして、すぐにその考えを訂正した。
(…まるで、じゃなくて。本当にそうなんだよな)
父親の職場見学に来た、末っ子の息子。
熱く炎を燃やしながら大声で語り続けるエンデヴァーを、冷めた目で見上げる轟。
轟が鬱陶しそうな顔をしていることに周りのプロヒーローたちが気づいて、少し恥ずかしそうにしながらも、リーダーであるエンデヴァーに気がすむまで語らせてあげている。
きっとエンデヴァーが彼なりに、轟との関係を築こうと必死なことに気づいているからなのだろう。
(…不器用なんだなぁ。あれじゃ怒鳴り散らしてるようにしか聞こえないし、自慢話にしか受け取れない)
けれど、轟がそんなエンデヴァーの話を遮ることはない。
殺気を孕んでいた彼の凍えるような視線も、ほんの僅かながらに温かみが戻っている。
「どうだ、言われるまで思い至らなかっただろう!!」
「いや、序盤で大体わかった」
「そんなわけあるか!!!」
「うるせぇ、話が長い。それとなんで俺ばっかり呼ぶんだ、深晴だって駆け足サボるだろ」
「話が長いとはなんだ焦凍!!見学させてもらってる分際で焦凍!!!」
「暑苦しい、何度も呼ぶな気色悪ぃ」
遠巻きに親子の会話を眺めていた向に、轟がムッとした顔を向けてくる。
「なに笑ってんだ、クソ親父に絡まれてるクラスメートがいたら助けろよ」
『あまりに、微笑ましくて』
「何が」