第47章 寝ても覚めても
彼女の囁く声が聞こえて、一瞬呼吸を忘れた。
瞑目するのをやめて、彼女と目を合わせる。
ただ、静かに微笑む彼女は優しく相澤の頭を撫でて、問いかけてきた。
触れ合うだけで忘れられるのかと。
そう言葉を返した彼女の声には、押し殺したような彼女の願望が秘められていた。
「…深晴」
『眠たいよ、消太にぃ』
ひどく、眠たい。
彼女はそう声をこぼすと、小さく丸まって、相澤の胸に顔を埋めた。
相澤はすぐに言葉を返すことが出来ず。
黙って、彼女の華奢な身体を抱きしめた。
(……あぁ、大人気ない)
十分、愛しているのに。
もっと愛せと迫られる息苦しさを、自分は知っているのに。
求めるばかりで、与えられていない。
彼女の心を自分の不甲斐なさで軋ませた。
自分よりも大切なはずの彼女を、自分が傷つく代わりに傷つけた。
「……すまない」
『ううん、勝手にそう思っただけ』
「……もう思い出したりしない」
『…それは、無理じゃないかな。誰だってもう手に戻らないものばかり、求め続けるからね』
「そんなつもりじゃない。俺はおまえだけ居てくれればいい」
『でも…そうだとしたら対等じゃない』
「何の話だ?」
私は、本当は
とてもわがままだから、と。
彼女がぽつりと呟いた。
そして、相澤の胸から、彼女が身体を離し、温かい指先で相澤の頬に触れた後、自嘲気味に笑った。
『おまえだけ、なんて言わないで。私は…そんな人間じゃない。私は…あなたが大切だから近づきたくない。あなたの穏やかな生活にヒビを入れたくないし、心に刃物を突き立てたくもない』
「…大切だと言う割に、傷つける予定はもう立ってるみたいな口ぶりだな」
『そうだよ。私は居候させる価値のない同居人だから』
「ならその理由を全部話せ。一年以上隠し事され続けるこっちの身にもなってみろ」
『もっと他に、相応しい素敵な女性がいるよ』
「っ…どうだっていい、俺はおまえがいい」
珍しく、焦った声を出し続ける彼に、彼女は困ったように微笑んだまま、言葉を返す。