第5章 先生としてどうなんですかそれは
突っ伏したままの向に、1度店員が視線をやった後、大丈夫ですか?という視線を切島に向けてくる。
具合悪くなっちゃって、と説明すると、エプロンの良く似合っている女性店員は、何かあればお呼びくださいね、と丁寧な接客を終え、店内のカウンターへと入っていく。
『…………ごめん、私払うから』
「あぁ、いいってそんなの。なんか、こういうカフェって男1人じゃ入る機会あんまないしさ」
俺も勝手に楽しんでるから、気にすんな!と、切島は闊達に笑う。
向は身体をテーブルに投げ出したまま、顔だけ切島に向けると、ありがと、とお礼を口にした。
『…えっと…鋭児郎だっけ、優しいね。なんというか、ヒーローらしい』
「おっ、名前覚えてたのか。向も十分ヒーローの素質あるよ、視野が広いっつーかさ!」
『…私は、なんというか…』
ダメダメじゃないかな、と向は呟いて、深くため息をついた。
何がダメなんだよ?と切島が聞いた後、すぐに店員が2種類のジュースを持ってきた。
「こちらがフレッシュオレンジジュースになります」
「……あ、とりあえずこっちに置いてください!2つとも」
「かしこまりました」
失礼します、と立ち去る店員を、向は身体を起こし、まじまじと見つめる。
その初めて見る物を見たかのように目を丸くする向を、切島が不思議に思い、問いかけた。
「向ってさ、こういうとこ来たことない?」
『…そうなんだよねぇ。来たことない』
「あー!だから猫みたいに目まん丸にしてんのか!」
『猫?』
「それじゃなくても、向は猫っぽいイメージ!」
『そう?目が?』
「いや、上鳴のあしらい方とか、飄々としてる感じとかさ。いつも結構笑ってっけど、でもたまにイラっとした顔してるよな」
『ははは、気分屋なものでお恥ずかしい』
「やっぱそうなのか。あ、どっち飲みたい?」
『んー、どっちも』
「どっちも?」
あ、どっちでもいい、と言い直した向に、切島が少し動揺しながら、問いかける。
「…じゃあとりあえず、ひと口ずつ飲んでみるか?」
『わっはーありがと!』