第47章 寝ても覚めても
身体痛めるからベッドで寝なよ。
と声をかけてくる向が、ベッドの縁からまた寝返りを打って離れた音を聞いた相澤は。
(…チョロいな)
なんて計算づくで言質を取ったことを悪びれもせず、向の隣に寝転んだ。
以前の関係のままであれば、絶対に訪れることのなかったシチュエーション。
添い寝なんてしたことがないのか、向は相澤の方を向くことなく、1人で眠っている時のように仰向けのままだ。
相澤は左腕を枕のように自分の頭の下に敷きながら、彼女の横顔の輪郭に声をかけた。
「…深晴」
『ん?…どうしたの?』
まるで、怖い夢でも見て眠れない子どもをあやすかのように、向は優しい声をかけてきた。
そんな彼女と薄暗い闇の中で、数秒間見つめ合った。
『今日、嫌なことがあったの?』
完全に、相澤のいつもと違う行動を外的要因からだと思っているらしい向は、身体を横に向けて、相澤の方を向いた。
「…あぁ、嫌なことを思い出した」
嘘ではない。
けれど、そんな理由で自分はここに訪れたわけじゃない。
そのことを口には出さず、返答を待っていると。
彼女は相澤の頭に触れてきた。
『そっか、じゃあ一日の終わりはせめて、幸せなことを考えて眠ろう』
「…んなこと考えるのも一苦労なんだよ、この歳になると」
『歳は関係ないよ。私は誰かと添い寝なんて、したことないから幸せ』
「……、なら、おまえも俺を穏やかな気分で眠らせてくれ」
ゆっくりと輪郭をなぞって、相澤の頭に触れる彼女の左手が温かい。
数度撫でられていただけで、なんだかうとうととしてくる。
もう、十分幸せなのに。
「…これだけか?」
なんて、欲を見せた。
彼女は静かに、自分の空いている右手の手首を回し、2人の間に置かれていた相澤の右手に触れて、包み込むように握った。
彼女の右手に相澤が長い指を引っ掛け、指先を絡め直す。
グッと力の込められた相澤の手に、向も同じ反応を返した。
「…この先は?」
と、問いかけると。
向は少し黙った後、困ったような声を返してきた。
『…この先は、ごめん。わからない』