第46章 公私混同etc
(…何も、変わらない)
弱くて、かっこ悪い。
自分はそんなちっぽけな男だ。
けれど彼女の言われるままに虚勢を張って、息が詰まる生活を続けて。
裏切られたことを信じたくなくて。
自分は愛されていたと実感したくて。
問いかけた。
彼女は、言った。
「これでもう何度目だ?不満があるなら、言ってくれないとわからない。怒鳴り散らす前に、嫌な態度を取って無視する前に言葉を返せ」
「何回だって言ったわ!!あんたが淡白すぎるからでしょ、好きなだけ、愛し合ってるだけでずっと一緒にいられると思ったら大間違い!!不安になるのよ、あんたといると!!」
「……怒鳴るな……頭が痛い…不安になる?どうして。おまえが言うように見た目も、生活も合わせてやってる。何が気にくわない?」
「一緒に住んでるからって安心しないで、仕事から帰ってきたら今日はどうだった?くらい聞けるでしょ!疲れてるからって私が作った食事をないがしろにしないで、メールを業務連絡に使わないで!!」
もっと愛してよ、と叫ぶ彼女に。
相澤は長い長い弁明を、何も言う気にはならず。
(なら……おまえは、俺と同じように努力したことがあるか?グラスをいくつもいくつもテーブルに出しっぱなしにするな、くだらないことで俺の仕事の邪魔をしないでくれ、何度も何度も言った、けどおまえは何も変わらない、自分を変えようとするのはいつだって俺だ…!)
「ーーー…ただ、愛して欲しかった」
彼女に一言だけ、そう言って。
相澤は溢れる涙を堪えきれずに、もうおまえの顔は見たくない、と。
振り絞るように別れを告げた。
ただ、自分が道を見失っていた時に。
隣にいて時間を共有しただけの、そんな奇跡を懲りずに愛した。
こんな取り留めもない自分と一緒に時間を過ごしてくれるというだけで、人を愛するには十分だと思えた。
自分は何も変わらないまま、変われないまま。
けれど学生の頃と違っているのは、愛した相手が彼女ではなく、深晴だということ。
誰に聞かれて答えたとしても、深晴との生活は本当に「うまくいっている」と呼ぶに値する。
深晴と視線を交わす度。
いつも、いつだって。