第46章 公私混同etc
『サイドキックなの?』
と本人すら初耳だったらしく、向は爆豪に問いかけた。
爆豪は返事を返すことはなく、ミッドナイトの持っていたボールペンを抜き取り、ノートに書き込んだ。
「ベクトルヒーロー、Unknown」
Unknown(アンノーン)
未知のヒーロー。
不明のヒーロー。
そして、無名のヒーロー。
「テメェは常にクソ舐めプ女で個性でステルスにもなれる、名無しが良いならこれで十分だろ」
『名無しのヒーロー?じゃあ、それで』
「えっ、いいの向さん?」
『いいです、他に候補ないので』
常に舐めプってのが少し気になるけど、と向は爆豪を見やったが、爆豪は提出用の紙に自分のヒーロー名を書き込んで、さっさと相澤のもとへと提出しにいってしまった。
ありがとうございました、とミッドナイトに深々とお辞儀をした向に、ミッドナイトがそわそわとしながら問いかけてくる。
「ねぇ、二人って付き合ってるの?ネットニュースで見たまんま?」
目を輝かせながら見つめてくるミーハーな教師を見下ろして、向は笑った。
『いや、ただの相棒、らしいです』
残念がるミッドナイトから提出用の紙を受け取り、二人の友人達から貰ったコードネームを書き込み、向は相澤のもとへと歩み寄った。
『お願いします』
「……ああ」
代わりに受け取った希望先調査票に、『ペン借りてもいいですか?』と相澤に断りを入れて、向が第1希望を書き込んだ。
『これも、お願いします』
調査票もその場で提出してしまおうとした向の手元を眺め、相澤は受け取ろうとした腕を下げた。
(……?)
視線を合わせずにいた彼がようやく向と視線を合わせ、足を組み、机に片方の肘をついて、無言で見上げてくる意図には心当たりがあり過ぎた。
『さ…騒いですみませんでした』
「………。」
『と、友達ごっこしててすみません』
「友達?」
へえ、と重く返事を返す相澤の視線に耐えきれず、向が視線を逸らした。
そのまま調査票を受け取らずに、相澤はマグカップを持ち、コーヒーメーカーの方へと歩いて行ってしまう。