第45章 らしい名前をつけましょう
向が小さく唸りながら、返信に気を揉んでいた矢先。
背後から伸びてきた相澤の手が、彼女のスマホをスッと抜き取った。
あっ、と声をあげて振り返ったが、リビングに戻ってきた相澤はじっと彼女のスマホの画面を眺め、次いで向を見つめた。
「……。俺が返事、打ってやろうか?」
『何言ってんの?返してよ』
「返すも何も、俺がおまえに買ってやったものだろ」
『そ、それはそうだけど。…何にしたって、勝手に見ないで』
「見られちゃまずいものでもあるのか」
『そんなものないって』
「へぇ。の割に必死だな」
『返して』
手を差し出してくる向を悠々と見下ろして、相澤はポン、と何も持っていない方の手を向の手のひらに重ねた。
『いやお手じゃなくて』
「先に夕食にしよう」
『先にも後にも一瞬で終わるから。返せばいいだけだから』
「飲み物は?」
『……。』
冷蔵庫の前に立ち、相澤がため息をついた。
無言になった向と、相澤が睨み合い。
結局、ポイっと投げて返却されたスマホを向がキャッチし、『どうも』と少し怒ったような声を出す。
「深晴」
『はいはい、なんですか』
「不愉快だ」
背を向けたまま、発せられた彼の言葉に。
向が目を丸くした。
煩わしげに自分の前髪をかき上げながら、相澤が振り返った。
彼は不機嫌そうに、眉間にしわを寄せた顔を彼女へと向け、浅く息を吐いた。
「なんで轟と一緒だった?今日は他の奴らと会うって言ってただろ」
『…え………い、いや…焦凍と会ったのは駅で、ちょうど二人とも居合わせただけ』
「…へぇ?そんなタイミング良く同じ駅で出会ったなんて、信じ難いこともあるもんだな」
『違うよ、焦凍はこの辺りに住んでるみたいで…だか「だから一緒に居ても不自然じゃないって?おまえが突き落とされたのは乗車駅だろ。下車駅じゃない」
まくし立てるような彼の声に、向は口を噤んで、じっと耳を傾けた。
相澤はつらつらといつもより早口で言葉を並べ立て、彼女から視線を逸らし、グラスに水を注ぎ始める。
彼女が口を挟む間も無く話し続ける相澤に、向が近寄って、グラスから水が溢れそうになるまで傾き続けられていた彼の手を引っ張り、水の入ったペットボトルを縦にした。