第43章 独白
良い大人が、惚れ込んだ相手につれなくされた程度で仕事も食事も丸一日手につかないなんて馬鹿げている。
生きていく上で仕事は欠かせない。
大人にとって当たり前の生活サイクル。
そんな生活に身を置いてもう十年も経つ。
「普通」ならあり得ない。
けれど彼は「普通」じゃない。
それは十年以上の付き合いで、俺がよく知っている。
ーーーは?オイオイ、おまえそれで良いのかよ!?
その言葉に何度、彼に反論を求めたことだろう。
何度、彼女に浮気をされようと。
何度、彼女に嘘をつかれようと。
何度、彼女に言葉で心を殺されようと。
深く、深く、傷ついて。
それでもあいつは、最低な女を愛してやまないような馬鹿だった。
うまくいっていると自分で自分を誤魔化して、周りの言葉には耳も貸さず。
孤独を選ぶ方がマシだなんて極論に行き着くまで、離れどきを見失った。
嫌な女と別れてせいせいしたかと思いきや、今度はまるで心が欠けたかのように、見えるもの、聞こえるもの全てに対して、関心を持たなくなった。
(……俺が、ちゃんと見張っておいてやらねぇと)
もう、十分。
彼と少女の間に、他人には立ち入れない絆が結ばれていることは理解できている。
けれど、子どもの心など移ろいやすい。
それを理由に関係が壊れていったとしても、彼女を責めるのは酷な話というものだ。
出来ることなら。
彼の期待が、裏切られる結末は見たくない。
(…決めた、明日は言ってやろう)
失わないように、ほどほどに頑張れ
自分を見失うくらいに、誰かを愛してしまう不器用な同期への忠告を考えながら。
俺は相変わらず仕事が遅く、合コンなんて夢のまた夢に終わったミッドナイトの仕事を手伝い続けた。
「あーー合コン行きたかったーーちょっとマイク、これ終わったら一杯付き合いなさいよ!」
「オーケイオーケイ!でもよぉ、これ今日中に終わんのか?」
「聞かないで!!」
第43話
独白