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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第43章 独白




時刻は21時過ぎ。
ようやく仕事を終わらせた同期が、慌ただしく職員室から出て行った。


(…あぁ、結局話せなかったな)


タイミングを見失い、一日が終わった。
俺は背もたれに身体を預けながら、ぼんやりと昔を思い出していた。


ーーーで、なんでもう終わりにしようって思ったんだっけ?あんだけ彼女になら何言われたって許せるって言ってたやつがよー!
ーーー別に、我慢の限界が来たんだろ。でも決め手は、無意識のうちに自分の身辺整理してて、日に日に俺の部屋から物が消え失せてたことに気づいたからだな
ーーーそれ、無意識に出てく準備してたってこと?おまえ怖っ!
ーーー結局、向こうが出てったけどな。俺も自分が怖ぇよ


やめときゃいいのに、夢中になりすぎて。
自分たちで自分たちの別れを早めた二人の同期。
彼はその経験を経てからというもの、身の回りの物は必要最低限に留めることを信条に生きてきた。
だから久しぶりに彼の部屋に訪れて、すぐに気づいた。
自分自身の為だけなら、必要がないはずの家具や調理セットを見て。
あぁ、本気なんだなと分かった。


(…おーおー走っちゃって。車事故らせたらシャレになんねぇぞ)


窓から見下ろせる駐車場から、同期が黒い車を急発進させるのを見送った。
適度に楽しんで、適度に本気になるような、そんな「丁度いい」恋愛が彼には出来ない。
だからこそ、気づけない。
だからこそ、俺も言い難い。
彼が手放すまいと手元に置いている彼女の部屋の荷物の少なさは、きっと。
彼女がいつでも、あの家から出ていけるようにと考えているからこそだ。
整理整頓が出来る彼女が、トランクを部屋に出しっぱなしにしていることも、一つのヒント。


(…いや、気づいてるから早く帰りてぇのか)


いつも、いつも、そうだ。
あいつは大事なことこそ聞かないし、言わない。
無欲に見えて、何かを欲する気持ちは人一倍あるのに、失うのが怖くて手元に持たない。
そういう奴だ。


「…けど、今回も失くしちまうんじゃねぇかな」


今でも、迷って言葉に詰まる。
失くさないように、ベストを尽くせよ。
失くすことに対して、覚悟を決めろよ。
今すぐに手放せ。
色んな助言が頭に浮かんでは、消え。
カーテンも締め切って、明かりもないまま、彼女がいなくなった部屋で一人、横たわっていた彼の姿を思い浮かべた。


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