第41章 ただの茶番さ
要約し、簡潔に。
時間がない。
圧力をかけられ続けながらそう求められて、オールマイトが苦し紛れに言葉を発した。
「だっだから…向少女のこと、どう思ってるかって!」
「脳筋バカが…!」
「イレイザー、帰りたすぎだろ!!平和の象徴に向かってそいつぁ手キビシーー!!」
(脳筋バカって言われた…!)
グスングスンとなぜかマッスルフォームの暑苦しい姿になってから泣き始めるオールマイトを見て、相澤がしれっと話を続けた。
「冗談はさておき」
「冗談だったの!?相澤くんユーモアのセンスなさすぎ!」
「で、なんです?向に違和感を感じたことはないかって?」
「う、うん…察してくれてありがとう…」
相澤は自分の指先で、デスクワークで疲れた目元を揉み込みながら、深くため息をついた。
「ありますよ。怪しいどころか、隠し事なら」
「隠し事…?誰に対する?」
「…誰に対しても。あいつの経歴は、一般生徒よりは複雑なんで。けどその警察の知り合いに話すつもりなら、守秘義務が我々教員には課されてることを理解した上で聞いてくださいね。生徒の身の上話なんて、個人情報以外の何物でもないんで」
「じゃあ、私の中で留めておくことにするよ。けれど、私も情報を得ておきたい」
「良いですけど、俺が教えられるのは入学時に家庭に配られる生活環境調査票のアンケート結果、家族構成とか…担任として、知り得た情報のみです」
「えっ、親戚として知ってることは教えてくれないの?」
「そういうのは直接本人に聞いてください」
「…わかった」
(これは、もう早く帰るのは無理だな)
ただソファに寝転がって時間を食いつぶしていた昨日の自分を縛り上げてやりたい。
相澤は深くため息をついて、向へと携帯からメッセージを打った。
悪い、今日も遅くなる。
そう打ち込まれた携帯の画面を見て、ふと。
十年前にも、同じ業務連絡のような文面を毎日のように打っていたな、なんてことを思い出した。
(…………。)
相澤は文字を打ち直し、彼女へとメッセージを送った。
早く、おまえに会いたい。
遅くなる、とも。
謝罪の言葉もなく。
相澤が彼女に送ったのは、合理性に欠ける、情報が欠落した無意味な文章だった。