第1章 第1回相澤家家族会議
『そいつは…困りましたね。なんだってまたそんなめんどくさいクラス配置に』
「お前のクラスは1-A、そしてその担任は俺だ。上の決定だからもうこれは覆らない。何を言っても変わらないものに時間を割くくらいなら、お互いの今後を考えた方が有意義だ」
『あーなるほど。了解です。…で、具体的にはどうするの?』
どうやらこの先の見通しをある程度立てているらしい相澤に、向が問いかける。
相澤は眉間の少し下の部分を片手の指先で揉みほぐした後、ため息混じりに答えた。
「…お前を、これから一人の生徒として評価して接しなくちゃならない。だから学校では私語厳禁、一切話しかけるな。誰がどこで何見てるかわかったもんじゃない。買い出しも今までのようには一緒に行かない。必要なものがあれば俺に自宅で相談か、メールで連絡。ここから一歩出たら俺とお前は教師と生徒だ」
『……おぉ』
「返事は?」
『……うーん、それさぁ、買い出しがダメならもう一緒に遊びに行ったりできないってこと?』
「何言ってんだ、今までも遊びに行ったことなんかないだろ」
『うん。これから先、卒業するまで?』
「そうだよ」
『……うーん』
歯切れの悪い反応を返す向をテーブルに残し、相澤は冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出した。
グラスに3つ氷を入れた後、水を注いで、一飲みすると、ようやくひと息つけた気がした。
『…どっかでバレる気がするんだよなぁ』
「バレたらおまえは俺の姪っ子ってことにする」
『んー…まぁ、いいよ。消太にぃが好きなようにしよっか、雄英受験したのは私だし』
仕方ないよね、と呟いて、にこにことした笑みを浮かべる向に、相澤は何か言葉をかけてやろうとして、結局やめてしまった。
『なんか動きづらそうだけど、同じクラスの担任と生徒が一つ屋根の下で秘密の生活ってさ…』
堪らなくエ、まで言った向の口に、相澤がグラスから取り出した氷を1つ押し込んだ。
相澤の指ごと口に入ってきたその氷を、彼の指もろとも躊躇いなく噛み砕こうとした向に気づき、相澤が指を引き抜いた。
『残念』
「オイ」
不満げに呟いた向の態度に、相澤は軽くため息をつき、グラスを傾け、残った2つの氷を自分の口に放り込んだ。