第1章 第1回相澤家家族会議
「ただいま」
現時刻は夜20時過ぎ。
仕事から帰ってきた相澤は、一瞬だけリビングに顔を出して挨拶を済ませた後、自室へとすぐに入っていった。
いつもの行動に不審な点は見られない。
リビングのソファに腰掛けていた向は『おかえり〜』、ともうリビングから立ち去って姿が見えない彼に声を飛ばした後、また読んでいた雑誌に視線を落とす。
仕事着のヒーローコスチュームから部屋着へと着替えてきた相澤が、いつもと変わらない様子でリビングに再び現れたのが視界の端に映った。
特に気にすることもなく、また雑誌のページをめくる手を動かす。
(………ん?)
ふと、その相澤の姿がいつまでも同じ位置から動かないことに気づき、彼に視線をやった。
バチッと二人の目が合った瞬間、相澤は真顔のまま、目を見開き、男性としては些か魅力的過ぎる声を無駄に張り上げた。
「第1回!」
『……は?』
「チキチキ、相澤家家族会議ィー」
相澤の声の張りはセリフの最後まできちんと保たれることなく、途中からやる気が極端に失われたそのタイトルコールに、向は耳を疑った。
『……どうした、消太にぃ。柄にもない』
「いいから、ここ座れ」
いつもであれば、相澤は仕事から帰ってくると、冷蔵庫で冷やした水をグラスに注いだ後、それを一気に飲み干し、今日はどうだった、と毎日決まった会話を向に持ちかけてくる。
しかしその相澤のルーティーンは本日行われることはなく、彼は自身が所有する2LDKのダイニングテーブルの一席に座ってこちらを手招きしてくる。
『…家族会議?なんかあったっけ、議題なんて』
そう言いつつ、なんだか嫌な予感がしている向はおとなしく相澤の向かいの席に座った。
相澤が、片手にぶら下げていたタブレット機器をテーブルの上に置き、その電源を入れた。
「時間は有限、単刀直入に言うぞ。深晴、今日の議題はお前の配属クラスについてだ」
『…うーん?あ、雄英の?へー、担任誰?もしかしてプレゼント・マイク?』
「俺だ」
二人の間に沈黙が流れる。
向は相澤に向けて片耳を近づけた後、は?というような顔をした。
もう一度、俺だ、と答えた相澤に対し、向は(うわぁ…)なんて失礼な心情を余すところなく顔に浮かべた。