第40章 世間は狭い
(ーーー反射で、ダメだ中には人が)
個性で衝撃を反射?
なら、何人が犠牲になる?
何百人が怪我をする?
線路脇に移動?
ダメだ、演算が間に合わなーーーーー
頭を打ち付け、視界が歪む。
ホームから落下した彼女を見て、駅に並んでいた人々が叫び声をあげ、目を覆った。
「向!!!」
揺らぐ世界で、よく知った顔を見た。
彼は、彼女が電車に轢かれる寸前。
自分から線路へと飛び降り、彼女を引っ張ってホームの下、線路脇に転がり落ちた。
すぐ脇を高速で通り過ぎていく電車が、彼女を抱きかかえるように転がった彼の背に風をぶつけた。
『……………っ…』
「っは……!……はぁっ……!」
死ぬと、思った。
そして、そんなことを考えた彼女を助けた彼も、同じように顔を真っ青にして。
似たことを考えたのか、乱れる呼吸を必死に整えて。
大丈夫か、と。
一言、向を見つめて問いかけてきた。
『………焦凍』
「何してんだ、どうして個性で逃げねぇ!?」
どうして、キミがここに。
そう横たわりながら考えた向を、轟は睨みつけて来る。
轟は鮮血が滲んでいる向の頭を、苦虫を噛み潰すような顔で見つめた後。
「……っケガで、済んで良かった…」
そう言って向をまた抱きしめた。
その両手は震えて、まるで凍えているかのように熱を失っていた。
「俺なんかに助けられたくねぇなら、もっとしっかりしろ!!!」
まるで、心の底から叫ぶような彼の言葉を聞いた。
急ブレーキをかけた電車の中からも外からも、「生きてるか!?」「大丈夫か!?」と姿の見えない二人を心配する声が聞こえてくる。
『……ごめん、焦凍』
死に直面したからだろうか。
向を抱きしめる彼の身体が、まるで冷え切って氷のようになっている。
『…………ごめん』
向は、ホームと電車に光を遮られた薄明かりの中で、じっと轟を見つめた。
電車と衝突し、命を失ったかもしれないことへの恐怖で震えているのかと向が思っていた矢先、轟の腕に力が込められた。
そして彼は、か細い声を発した。
「…おまえが、死ぬと思った」
『………。』